2005年03月19日

アンリアルの中に見た"リアル"◆『エターナル・サンシャイン』5

3月19日(土)TOHOシネマズ木曽川にて

この春、私が一番楽しみにしていた作品が、『エターナル・サンシャイン』。初日を待ってまで観たいと思う作品はめずらしい。初めて予告編を観た時から惹かれてはいたが、アカデミー賞で脚本賞を受賞したことで、いっそう期待は膨らんでいた。


ジョエル(ジム・キャリー)は、恋人のクレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)と喧嘩別れしてしまったことを悔やんでいた。彼女に謝ろうと会いに行くが、彼女はジョエルのことを、知らない他人のような目で見る。傷ついたジョエルの元に、「クレメンタインはジョエルの記憶を全て消し去った」と書かれた一通の手紙が届いた。彼女は、記憶除去を専門とする医院で、ジョエルとの思い出を全て消し去っていたのだった。ショックを受けたジョエルは、自分も彼女との思い出を消そうと、その医院を訪ねるのだが…。


「あるビルの7と1/2階にあるオフィスの壁には大きな穴が空いていた。穴の中に入って行くと、そこは俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中だった。それは15分間だけジョン・マルコヴィッチになれる穴だったのだ」
この、映画『マルコヴィチの穴』の脚本を書いた、チャーリー・カウフマンの新作。他人の頭の中に入り込み、そこから世界を覗くという、奇抜なストーリーを考える脚本家のことなので、今回の『エターナル・サンシャイン』も当然のごとく、普通のラブストーリーではない。記憶を人為的に削除する装置が登場したり、現在と過去、現実と非現実が複雑に交差したりするため、『マルコヴィチの穴』が理解出来ない人には、キビしい作品かもしれない。私はシュールな『マルコヴィチの穴』の世界観が大好きなのだが、この『エターナル・サンシャイン』は、『マルコヴィチの穴』以上に好きになった作品だった。

とても非現実的なストーリーのはずなのに、ここで描かれている恋愛は、実にリアルである。『きみに読む物語』『ロング・エンゲージメント』などで描かれている"おとぎばなし的恋愛"には全く現実味を感じることが出来ず、受け付けることが困難だった私だったのだが、この作品で描かれているリアルな恋愛には、強く共感した。

「石鹸についている髪の毛が許せない」
映画の中で、ケイト・ウィンスレット演じるクレメンタインが、ジム・キャリー演じるジョエルをなじるセリフだ。夢の中に居るような恋愛をしている人たちには分からない世界かもしれないが、実際はこんなもんだ。出会った時にはラブラブでも、相手に対する不満は付き合っていくうちに鬱積していくものだし、それが溜まり溜まって爆発し、くだらないことで喧嘩する…恋愛とは、そういうものだと思う。

クレメンタインはジョエルと喧嘩別れしたあと、彼との思い出を"人為的に"消去してしまう。ジョエルもそれを真似ようとするが、消去の途中で抵抗を始める。これは「男は過去の恋愛を引きずるが、女は過去をリセットして次へと進もうとする」という、大多数の男女が持つ習性を上手く表現している。しかし、嫌な思い出も消さずに持っているからこそ、女は別の男性へと目を向けられるわけで、それすらも完全に消去してしまったら、また同じ男性に魅力を感じることがあってもおかしくはない。このストーリーで語られている恋愛観は、全てが現実的で納得出来るものだった。

奇抜なアイデアと映像で描かれる、恋の終わりと始まり。ラストシーンは、静かな余韻を残す。エンドロールが終わり場内が明るくなるまで、約40人の観客は、誰も席を立たなかった。私もしばらく席を立てなかった。

「嫌いな理由について語るのは簡単だが、好きな理由を話すのは難しい」というのと同じで、つまらない作品にはあれこれ書けるのだけれど、本当に面白かった作品について書こうとすると、言葉に詰まってしまう。もう一回観に行ったら、もう少しまともなレビューが書けるかな。もう一回観に行く。絶対。

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この記事へのコメント

1. Posted by purioscar    2005年03月22日 09:34
たくさんTBいただいたようでありがとうございました。
「エターナル〜」は僕もとても楽しみにしていた作品です。
カウフマンが好きと言うのもありますが、映画のプロットがすごく魅力的に思えたからです。
映画を見終えた後、僕もエンドロールが終わるまで席を立てませんでした。Beckの"Everybody's gotta learn sometime"が映画のテーマを端的に表しているようで、深く胸に染みました。
2. Posted by moco fleeks    2005年03月22日 12:44
こちらこそ、ありがとうございました。
観終わったばかりなのに、すぐにもう一度観たくなる…そんな作品でした。
上映中、何度か通ってしまいそうです。
3. Posted by カヌ    2005年03月22日 21:18
期待して待っていた甲斐がありました。
ちょっとありえない話にリアルな恋愛観とギャップがあるのに心にグッと入ってくる作品でしたね!
4. Posted by moco fleeks    2005年03月22日 23:26
ホントにその通りです。
『マルコヴィッチの穴』のような、"ありえない"だけで終わってしまうような話も好きなのですが、『エターナル…』には完全にヤられました。
5. Posted by chishi    2005年03月28日 15:28
話の設定はありえそうもないのに、
すごく身近なことが多くて
いろいろ考えさせられました。
じわじわとくる、いい作品でしたねー。
6. Posted by moco fleeks    2005年03月29日 00:36
「石鹸についている髪の毛が許せない」には笑ってしまいました。
『マルコヴィッチの穴』のような話を想像していた私には、
このリアルさが妙にツボに来てしまったんです。
2回目観に行きたいのですが、まだ行けてない…。
7. Posted by chishi    2005年03月30日 15:37
私もまだ行けてないです。
今週末の映画の日あたりを狙ってるんですけどねー(笑)

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