2005年05月16日

いかにも踊れそうな主役が面白くない◆『Shall we Dance?』3

05-05-21_22-03.jpg5月16日(月)TOHOシネマズ木曽川にて

先週は体調不良やら旅行やらが続いて、一週間以上映画を観ていなかったのだけれど、ようやく今日から映画生活に復帰だ。観に行きたいと思いつつもなかなか行けなかった『Shall we Dance?』をようやく観に来ることが出来た。

「悪役が出て来ない、ディズニー映画のような作品」
昔、日本版の『Shall we ダンス?』を観た時、私はそう思った。ちょうどディズニー・アニメの『美女と野獣』を観た時期と重なっていて、主人公がワルツを踊るシーンがそう思わせたのかもしれないし、普通の実写版映画ではあり得ないほど濃いキャラクターの脇役たちが、そう思わせたのかもしれない。

今では『ウォーター・ボーイズ』『スウィング・ガールズ』の矢口史靖監督などもキャラの強いコミカルな作品を撮っているので、それほどのもの珍しさはなくなったが、
どことなくアメリカ映画チックの日本版『Shall we ダンス?』は、当時の日本映画の中ではちょっと異質のエンターテイメント作品だったような気がする。普段、映画館に行かないようなおばちゃんたちがこぞって劇場に詰め掛け、映画は大ヒット、おまけに社交ダンスも小さなブームになった…という記憶がある。

そんな中、本当にこの映画がアメリカでリメイクされることになった。日本ではおばちゃんたちを虜にした、アメリカチックなこの作品が、実際にアメリカではどう受け取られるのだろうと思っていたのだが、大ヒットにはならなかったようだ。"アメリカチック"という印象があったと言えど、この作品の中で社交ダンスは「英国のダンス」として紹介されていたので、アメリカの中でも日本と同様に、少し特異なものなのかもしれない。

私自身、日本版を観たのはもう10年も前の話になってしまうので、ディテールまでを比べることは出来ないのだけれど、大雑把に捉えて、日本版とアメリカ版には大きな違いがあった。ひとつは主役の男性のキャスティングだ。

日本版の『Shall we ダンス?』の役所広司の役柄を、リチャード・ギアが演じている。共に、最初はステップもままならないのに、レッスンを繰り返すうちにめきめきと上達し、最後には大舞台で見事に踊る。それが役所広司だから、「踊れなくて当たり前、踊れるようになってびっくり」なのだけれど、リチャード・ギアを見ていると、「踊れて当たり前、踊れないことが不自然」に思えてくるのだ。元々、リチャード・ギアはミュージカルの舞台俳優だったし、つい最近はミュージカル映画『シカゴ』でも踊っていた。『プリティ・ウーマン』の富豪のイメージも強く、踊れるイメージはどうしても払拭出来ない。単なる先入観かもしれないが、その先入観によって作品がつまらなくなってしまったし、恐らくこの映画を観たアメリカ人も、そういう先入観を持って観た人が多かったに違いない。過去に日本版があそこまで大ヒットし、おじさんおばさんたちに社交ダンスブームを巻き起こしたのは、踊れそうにない役所広司が踊れるようになることにより、観た人に「自分にも出来るかもしれない」と思わせたからではないのだろうか。"踊れること"はこの映画のキャスティングとして重要だったかもしれないが、「いかにも踊れなさそう」という俳優を起用した方が、作品は生きてきただろうし、観客の心をつかむことが出来たのではないだろうかと思うのだ。

あともうひとつ、日本版とアメリカ版の大きな違いは、主人公のダンスに対する考え方だ。日本版では「社交ダンスを踊ること」=「妻に知られると恥ずかしいこと」という捉え方なのだが、アメリカ版では、主人公は社交ダンスを踊ること自体は恥ずかしいこととは思っていない。妻にナイショでダンス教室に通う理由は、「現在の生活に満足していないことが、妻に対して申し訳ない。だから言えない」という。それがとても分かり難かった。元々は、キレイな先生に近づきたかっただけじゃないのか。だから、先生に下心を見透かされ、指摘されたことで教室に通えなくなってしまったのではないのか。そんな不純な気持ちを、途中から急に「妻への愛」にすり換えられても、何だか勝手な話だなぁ…と思ってしまっただけなのだけれど。

以前、私の職場にも社交ダンスを習っていることを堂々と話すおじさんが居たが、私は正直に言って「気持ち悪い」と思った。やはり日本人にとっては、社交ダンスというものは特異な世界のものであって、「社交ダンスを踊ること」=「恥ずかしいこと」という図式の方が分かりやすい。日本人の視点からすれば、リメイク版は色んな点においてオリジナルを超えられなかったという印象だ。

最初に「ディズニー映画のような作品」と書いたが、そういえば去年公開されたディズニーアニメ『Mr.インクレディブル』でも、冴えない仕事に冴えない毎日を送っているお父さんが、妻にナイショで"あること"を始め、それによって生き生きと輝いてくる。妻はそんな夫を見て、浮気を疑う。しかし真実を知り、最後にはお互いの絆が深まる、という展開だった。同じような展開なのに、しかも『Shall we dance?』の方が先にネタは出来ていたというのに、ストーリーは『Mr.インクレディブル』の方が数段面白かった。
…やられちゃったね。

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この記事へのコメント

1. Posted by イーグル    2005年05月21日 23:02
コメント興味深く拝見しました。私もリメイクよりオリジナル版の方がずっと良かったと思います。良かったら私の感想も読んでみてください。高千穂峡には私も先日友人とドライブしてきたばかりです。ではまた(^^)v
2. Posted by moco fleeks    2005年05月21日 23:51
>イーグルさま
はじめまして。コメントをありがとうございました。
イーグルさまのブログにTBさせて頂きました。
私はこの前のテレビ放映を見逃したので、もう一度日本版を観てみたいと思いました。
高千穂峡水の色は本当に神秘的でした。
阿蘇のドライブコースも新緑がキレイで最高!
機会があればぜひまた行ってみたい場所です。
3. Posted by つっきー    2005年05月23日 07:38
はじめまして。
「つっきーの徒然草」から参りました、つっきーと申します。
トラックバックのお礼が遅くなって申し訳ありません。

私も自分のブログにオリジナル版、リメイク版の両方の感想をアップしてあるんですが、両方、それぞれに良い点、ちょっと首をかしげる点があって甲乙はつけられません。

ただ両方ともダンスを始めるきっかけが、電車の窓から見える憂いの表情を浮かべた美女へのほのかな浮気心である点は女性として納得いきません。

私はリメイク版のラストの奥さんへの愛情の再確認を絶賛したのですが、こちらのレビューを読んで「不純な下心」を「妻への愛」にすりかえるってのは確かに都合よすぎるんじゃないの?と思ってしまいました。
新しい発見をありがとうございました。

これからもよろしくお願いいたします。
4. Posted by taraponya    2005年05月23日 12:35
TBありがとうございました。
最初はハリウッド版もなかなか、と思っていましたが、最近「『Shall we ダンス?』アメリカを行く」を読み、繊細な演出のオリジナルのほうが、実は完成度が高いのではないか、と思い始めています。

やっぱり、オリジナルに込められた諸々のメッセージを伝えるのに、リチャード・ギアはミスキャストかもしれません……。
5. Posted by moco fleeks    2005年05月24日 22:41
>つっきーさま
はじめまして。
何か感動に水を差してしまったようで…よかったんでしょうか?
「淡い恋心」なら、それでつじつまは合うのですが(日本版はそうだったと思います)、
奥さんにバレたところで急に「君を愛してるから言えなかった」みたいなことを言われても、
苦し紛れの言い訳のようにしか思えなかったのです。
たぶん、バレたことで奥さんへの愛が再確認出来た、という表現なのでしょうが、
ちょっと都合が良過ぎるんじゃないかと思って。

>taraponyaさま
こちらこそありがとうございました。
周防監督が書かれた本ですよね。
私も機会があったら読んでみたいと思っています。
その前に、やはりオリジナルをもう一度観なければいけませんね。
6. Posted by 健太郎    2005年05月28日 01:43
TBありがとうございます。
ハリウッド版オリジナルのタキシードにバラ一輪のシーンで、奥さんにタイトルを無視して「Dance with me?」と云うのがハリウッド版のテーマであってメッセージなんだと感じました。
日米の文化の違いが解ったので自分としてはどちらも傑作です。
7. Posted by moco fleeks    2005年05月28日 11:27
>健太郎さま
こんにちは。
日米の文化の違いにより、日本版に変更を加えた…と言われていますね。
アメリカでは不純な気持ちを肯定させることは、あのテの映画ではNGだったのでしょう。
でも、私にはやっぱり不純な気持ちはあったと思うので、
唐突に奥さんへの愛を語り始めることが、ちょっと理解できなかったのです。(女性としての観方かも…)
アメリカ文化としては、たとえ不純な気持ちがあったとしても、
行動を起さずに妻に戻ればオッケーなんだ、と認識しました。

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