2005年05月25日

心理戦に最後まで引き込まれる◆『ベルリン、僕らの革命』4

05-05-27_02-59.jpg5月25日(水)名演小劇場にて

「何か、難しい話だったね。革命とか、よく分からないし」
映画が終わった瞬間、私の近くに座っていた大学生風の女の子が、連れの男の子に言っていた。そんなに難しい話だったかな?
実のところ、私にも「革命」なんてものはよく分からない。日本でも学生運動が盛んだった1960年代後半に、まだ物心もつかないような子供だった私には、当時の大学生たちが何が不満で戦っていたのか全く分からなくて当たり前だ。でも、少なくとも彼らが何かに不満を待っていて、世の中を変えようしてと戦っていたのだろうということくらいは分かっているつもりだ。

生活が豊かになるにつれ、若者は無気力になり、思想や向上心を持たなくなる。今は豊かで不満がない時代だから、敢えて世の中を変える必要を感じないのだ。「難しい話だった」と言った彼女はきっと、「世の中を変えたいとまで思う不満」がどういうものなのか分からなかったのだろうと思う。

しかし、ベルリンの壁の崩壊から15年経った現在のドイツには、金持ちばかりが優遇される現状に不満を持ち、活動を起している若者たちが居た。ヤンとピーターの二人"エデュケーターズ(教育者)"と名乗り、金持ちの留守宅に侵入しては、勝手に家財道具を移動させ、部屋の中をめちゃくちゃにして、更に「ゼイタクは終わりだ!」というメッセージを残して去る…ということを繰り返していたのだ。彼らの主義は、決してそこからモノを盗んだりはせず、ただ金持ちに精神的な制裁を加えること。彼らの謎の行動は新聞でも取り上げられ、"エデュケーターズ"はちょっとした有名人になる。

順調に活動を繰り返していた"エデュケーターズ"だったが、ピーターの恋人・ユールが絡んだこと状況は一転する。1年前、高速道路で前を走っていたベンツのSクラスに追突してしまったユールは、保険に入っていなかったために、その賠償を自己負担で迫られていた。その額は10万ユーロ(約1300万円)。年収300万ユーロのそのベンツ乗りの会社重役・ハーデンベルクには小遣い程度だが、ウェイトレスのユールにとっては、一生を無駄にしてしまうほどの金額だったのだ。ピーターの旅行中、ヤンとユールはハーデンベルクの留守宅に"エデュケーターズ"として侵入する。しかし、慣れないユールは、そこである失敗を犯してしまったのだった。


もがけばもがくほど、どんどん状況が悪化していくタイプの映画かと思ったらそうではなかった。立場的に有利に立っている3人の若者と、確実に頭がキレるであろうと考えられる会社重役。どう転がって行くか分からない、ヤン、ピーター、ユール、ハーデンベルクの心理戦だ。ひとりひとりが何を考えているのか、何が本当で何が嘘なのか、観ていても全く分からない。途中で突然登場する小道具のピストルすらも、本物かどうかが分からないところが余計に緊張感を高め、その緊張感は最後の最後まで持続する。物語が進んで行くに従って、先が全く見えなくなっていく展開はかなり面白かった。面白かったので、これ以上、核心に触れることは書かないでおこうと思う。

しかし、"エデュケーターズ"を「革命児」として理解するのには、ちょっと無理があった。金持ちたちに精神的な制裁を加える程度のことで、私は世の中が変えられるとは思えない。自分たちの力では世の中を変えることが出来ないから、幼稚な悪戯で以って、少しだけ金持ちたちの上に立つ気分を味わい、喜んでいるだけのように感じられる。確かにくだらなくて面白いが、彼らの思想は余計に分からなくなってしまった。

ほんの些細な不注意で、多大な借金を抱えてしまったユールには同情するが、自分の努力で財を築いた金持ちたちを妬んで、悪人扱いするのは間違っていると思う。悪いのは、あくまで保険に入っていなかったユールではないのだろうか。

お金がないからまともな教育を受けられず、まともな職に就くことが出来ない若者たちには同情するが、
自分たちの生活が豊かにならないことを金持ちのせいにするのは間違っていると思う。本物の「革命」を知らない私だけれど、彼らがやっていることを「革命」と呼ぶには、ちょっと考えが甘っちょろい気がするのだ。

映画は面白かったが、彼らがやっていることに私は同調は出来ない。


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この記事へのコメント

1. Posted by えい    2005年05月27日 10:34
トラックバックありがとうございました。

この映画、途中少しだれたのですが、
後半、展開が思わぬ方向に行って、
しかも、現実は結局こういうものと思わせ、
諦めモードに入ったところで
最後の人刺しがある.....けっこうあの幕切れは好きです。
2. Posted by moco fleeks    2005年05月28日 01:13
>えいさま
こちらこそ、ありがとうございました。
この映画は、ある程度予想出来る展開だと思わせておいて、
フッと違うところにもって行くタイミングが絶妙でした。
私もあのラストはかなり面白かったと思います。

3. Posted by トム    2005年06月01日 03:13
はじめまして

彼らの暴走の原因は「お金&生活」に対する不安。
金持ちがラストに問った行為も「お金&生活」に対する不安から。

誘拐されたのが不幸な成金の金持ち。

お金から自由になって
幸せな家庭や時間を持ってる金持ちが誘拐されていたら
山小屋でどんな話をしたのでしょうね?


そ〜んな見方はどうでしょう?
4. Posted by moco fleeks    2005年06月01日 23:59
>トムさま
はじめまして。
あの金持ちは成金だったのでしょうか。
私は、学生運動にも参加していたという彼が、
どうやってあの財産を築いたのかが、ちょっと気になっていました。
会社の重役だということでしたが、仕事で実力を上げてのし上がって行った人なら
「成金」とは言わないだろうし、元々親が金持ちだったのだろうかとか、
色々考えてしまいました。

色んな方のBlogを読ませて頂いたら、ドイツのオリジナル版には、
ラストに豪華クルーザーに乗っている若者3人のカットがあるということを知りました。
つまりそれを考えると、ラストで警察を呼んだのも、
全て若者3人と金持ちおやじの打ち合わせによるものという解釈が出来ると。
私はそのカットは必要ないと思ったのですが…。
5. Posted by moco fleeks    2005年06月02日 00:06
続きです。

金持ちおやじが、過去に学生運動の首謀者だったというくだりについて、
私はこう考えました。
「世の中を動かそう」というハングリーな考え方が出来る人だからこそ、
会社を動かし、重役にまでのし上がることが出来たのではないかと。
だから若者3人も「世の中を動かそう」と考えることが出来ること自体が重要なわけで、
上手くチャンスさえ掴めれば、きっとこの先の世の中を
リード出来る人間になれると思ったんですよね。
6. Posted by カヌ    2005年06月14日 00:18
こんばんは。
オリジナル版はそんなラストだったんですか。
私はもっと緊張感ある作品だと思ってたのですが
後半に行くほど、主人公たちとオヤジの立場が
逆転していき、ダメダメだったので、浅はかな
青年たちを皮肉ってる作品かと思っていたのですが
ラストを見るとそうでもないようで、微妙でした。
7. Posted by moco fleeks    2005年06月14日 02:58
>カヌさま
こんにちは。
私もブログ巡りをしていて、偶然に見付けたんです。
もうどこのページだったか分かりませんが、
ドイツ在住の方からの情報だった記憶があり、
確かにあの3人が豪華クルーザーに乗っている写真が貼られていたのです。
DVDの特典映像として入るのかもしれませんね。
8. Posted by トム    2005年06月14日 15:23
moco fleeksさま
ご返事ありがとうございます
豪華クルーザーの話は感動しました
ありがとうございます


「成金」についてはちょっと説明が足りませんでした。
「成金」は取ったほうがいいですね。
すなわち「不幸なお金持ち」と言いたかったわけです。

で、「不幸なお金持ち」とは
お金から自由になってない、
時間も精神も「お金」に支配されていると。。。

「家族」と一緒にすごす時間がない、
「寄付」もしたことがない、と。。。


ん、じゃあ「『幸せな金持ち』ってなんだろう?
『お金』ってなんだろう?」
と私は頭で展開しました。
「贅沢は敵」なのか?

9. Posted by トム    2005年06月14日 16:00
(こちらも続き)

で、先ほどの「豪華クルーザー」の話です。
(あくまで私の想像ですが)

「世の中を動かそう」と行動し続けた彼らは
社会的・金銭的成功を得たのですね。
彼女を取られても揺らぐことなく。。。

Educatorとして動き続けたことにより
「お金の正体」が分かり、
「多くの人にお金がまわる仕組み」を作ったのでしょう

お金の循環を高め、寄付もし、途上国にも配慮する。
多くの人に感謝され「幸せなお金持ち」になったのです
おそらく仲間と素敵な時間を過ごしているのでしょう

10. Posted by トム    2005年06月14日 16:02
そして
「贅沢は敵」ではなく
「お金に対する無知や恐怖が敵だ」

「オレたちは教育者のつもりだったが
実際は勉強中だった。
ただその結果、
お金から自由になり、幸せになる方法を伝える
Educatorになったぞ!」と
クルーザーから笑ってくれていたら最高ですね。

なぁ〜んてコトを考えてニヤニヤしている私です。
moco fleeksさん、ありがとうございます


(連続してすいません。。。)
11. Posted by moco fleeks    2005年06月15日 02:03
>トムさま
こんにちは。
実は、私の考えはちょっと違うんです。
ラストの警察突入がオヤジと3人組の打ち合わせだったとしたら、
クルーザーもオヤジに買ってもらったのだろうと思ったのです。
(あるいは、どうせ使っていないオヤジのものを譲ってもらったのかも)
なら、彼らが言っていた「革命」とは何なんだろうという疑問が沸きます。
貧しい時には、金持ちを見て「寄付しろ」などというくせに、
自分たちが金品を手に入れれば、もう貧しい子供たちのことなど
見えていなくなってしまったのではないかと…。
だから、そのカットは私的には要らなかったと思ったのです。
でも、私もあくまで他の人のブログに書かれていたことから
想像しただけですので、実際にその映像を見てみないことには分かりませんが。
12. Posted by Mr.Eric    2005年09月18日 00:43
古い記事にダブリTB失礼しました。
桂木さんが敢えて語らなかった部分
に言及してしまいました。
ちょっと毛色の違う感想を述べて
しまいました。
13. Posted by 桂木ユミ    2005年09月18日 20:16
>Mr.Ericさま
こんにちは。
なかなか面白い視点で捉えられていると思います。この映画に関しては、かなり色んな方と語り合ったので、上記コメント欄を読んで頂くと面白い意見も読むことが出来ますよ。

14. Posted by bakabros    2005年09月22日 01:07
TBさせて頂きました。
普段ほとんど考えない政治的な思想、主義について自分なりの明確な答えを求められる映画で、とても刺激的でした。若い頃を思い出したりして。
確かに彼等のやっている事は、自分勝手な事も多くて、でも自分はかえってそこにリアルな若者像を感じました。
15. Posted by 桂木ユミ    2005年09月22日 12:33
>bakabrosさま
こんにちは。
TBありがとうございます。
私も「若いな〜青いな〜」と思いながら観ていました。それがリアルだったのですね。
観終わった時に「革命」って何なんだろうと考えさせられました。
16. Posted by kimion20002000    2005年11月30日 09:46
TBありがとうございます。

監督は、現在の消費資本主義と世代間対立を寓話にして、青春物語を作っているんでしょうね。

犯罪(レジスタンス)が、最近の映画ではコンピュータネットでおこなわれるのに比べ、かれらは、古典的な忍び込みを覆面つけて実行している(肉体を使っている)のが、僕には、よかったですね。
17. Posted by 桂木ユミ    2005年11月30日 22:56
>kimion20002000さま
こんにちは。

>犯罪(レジスタンス)が、最近の映画ではコンピュータネットでおこなわれるのに比べ、かれらは、古典的な忍び込みを覆面つけて実行している(肉体を使っている)

このコメントに「なるほど」と思いました。それが"エデュケーターズ"のこだわりだったのでしょうね。

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