2005年07月02日

男を愛し過ぎてしまった女の物語◆『undo(アンドゥ)』4

05-07-02_11-58.jpg由紀夫(豊川悦司)は、"強迫性緊縛症候群"という、一種の愛の病にかかった萌実(山口智子)を目の前にして戸惑うばかり。萌実の症状は日に日に悪化し、ペットの亀から二人の愛まで、彼女はあらゆる物を縛っていく…。ある日、途方に暮れた由紀夫は、そんな萌実の体をがんじがらめに縛り始めた。

【注・感想ではありません。自己流解説です。ネタばれしています】

<難解なカルトムービー>
ある記事では、この作品のことをそう表現していた。確かにそうかもしれない。しかし、それは意図的にそう仕上げた、岩井俊二監督の企みであったのではないかと思う。
この作品は、由紀夫のナレーションで始まり、由紀夫のナレーションで終わる。
観る側は、彼の立場で映画の世界に入り込む。この映画が<難解>である理由はここにある。

彼は最初から最後まで解らない。
萌実がなぜ犬を飼いたがったのか。
なぜ亀では駄目だったのか。
なぜ彼女が病気になったのか。
彼女に対して自分はどうしたらいいのか。
なぜ彼女はどんなにきつく縛っても満足しなかったのか。
なぜ彼女は自分をがんじがらめに縛り付け、姿を消したのか。
そして、結局何が縛られ、なにがほどけていたのかということすら…。

『undo(アンドゥ)』は、奇妙な病気にかかった女に困惑する男の物語というより、どうしようもないくらいに男を愛し過ぎてしまった女の物語なのだ。観る側が彼女を理解することが出来た時、初めて『undo(アンドゥ)』の世界は理解出来る。

二人だけの生活に何か満たされないものを感じ、萌実は犬を飼いたいと言い出す。由紀夫の仕事は忙しく、彼女は相手にしてもらえない。だから、彼の代わりになるものが欲しかった。愛情を注げば、それに応えてくれるものが欲しかったのだ。それは犬であるからこそ意味があり、亀では何の意味もない。亀では由紀夫と同じなのだ。

由紀夫への愛に縛られながらも満たされない萌実は、心の奥底に彼の心を縛りつけたいという願望が芽生え始める。そしてその願望が、彼の身代わりに色々なものを縛り始めるという行為となって表れ始める。最初は亀、そして彼の身の回りのものを。
初めは自分がなぜそうしているのか、彼女自身も分かっていない。しかし、やがて彼女は<縛る>という行為が、愛情の表現方法なのだということを自覚する。だから、彼女は大切そうに、そして愛しそうに由紀夫の身代わりを縛り続ける。

由紀夫はどうしたらいいか分からず、カウンセラーに相談するが、萌実の病気を治そうとするのは、彼女を心から愛しているからではなく、とにかくこの現実から逃れたいという気持ちからである。初めて萌実の病名を聞いた時も、路上で萌実にキスされた時も、由紀夫は心の中で彼女を拒否している。病院からの帰りのタクシーの中で萌実に言った「今度の週末にどこかへ行こうか」という言葉にさえ、そんな思いが滲み出ている。そして、この現実から逃れるための最後の手段として、由紀夫は萌実を縛り始める。

由紀夫は萌実が<縛られること>で満足出来るだろうと思った。しかし、彼女にとって<縛ること>は、愛の表現なのだ。由紀夫がいくらきつく縛っても、それは現実逃避のためであって、愛の表現ではない。だから、縛られている彼女自身も、それには愛を感じない。由紀夫に縛られながら萌実が涙を流したのは、自分はもう由紀夫に愛されていないという事実に気付いてしまったからなのだろう。萌実が何度も繰り返す「ちゃんと縛ってよ」という言葉には、それでもまだ由紀夫の愛を信じていたいという彼女の切ない想いが込められている。

『undo=ほどく、解除する』
ラストシーンで、萌実はいとも簡単に自らの身体をほどき、一番縛りたかったものをがんじがらめに縛って姿を消す。簡単にほどけてしまうものが、由紀夫の萌実への愛であり簡単にはほどけないものが、萌実の由紀夫への愛なのである。
自らをほどきながら、萌実は何を思っていたのだろうか。
由紀夫を縛りながら、萌実は何を思っていたのだろうか。

愛に縛られた女は、男を縛ることによって、初めてその愛から解き放たれたのかもしれない。


(1995年10月、劇場にて鑑賞)
mocofleeks at 11:57 │Comments(6)TrackBack(2)お薦めの旧作映画 

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1. undo  [ 主に映画覚え書く ]   2005年07月02日 17:16
岩井俊二監督作品。 映像が綺麗で繰り返し観た。一回目観た後は感化されて軽く鬱になった。 山口智子の表情が瑞々しくてドキドキした。 豊川悦司のあの声の語り口が耳に残る。
2. 「undo」 love!  [ 与える林檎、かじりつく僕 ]   2005年09月02日 01:52
5 多分、1994〜1995年辺りに、映画「undo」を好きになりました。 なんとも言えない愛のかたちが映像化されており、たまりません。 なぜ、突然にこんな古い映画について書きたくなった理由は、この記事です。 「ホテル鯉保」:廃業、経営不振に加え後継者難 女優....

この記事へのコメント

1. Posted by ティエン    2005年07月03日 00:47
トラバありがとうございます。
またみたくなっちゃいました。

2. Posted by 桂木ユミ    2005年07月03日 04:51
>ティエンさま
こんにちは。
私は1度目観た時には「???」でしたが、
2度目に観た時に「もしかして、これって女の話なのかも」と思い、
3度目には女の気持ちと同化して観ていたら涙が止まりませんでした。
それからも時々無性に観たくなってDVDで度々観ています。
不思議な魅力を持った映画ですよね。
3. Posted by ひろたん    2005年07月30日 12:12
以前、貸ビデオ店から岩井俊二の作品を全部借りて見たことがありました。
その中に「UNDO」もありました。
桂木さんのブログで意味が分かりました。
意味が分からなくても、あまり気にならずに楽しめる性格なので、不思議な世界を堪能してしまいました。
4. Posted by 桂木ユミ    2005年07月31日 11:05
>ひろたんさま
こんにちは。
私はこの映画を4度目に観た時、初めて泣きました。
せつない女の人の話なんだと、初めて分かったときでした。
ひろたんさんも機会があったらまた観てみて下さい。
5. Posted by Five55    2005年09月02日 12:22
5 TBありがとうございます。

この映画のBlogがあるとは思いませんでした。
しかも、このBlogを読むことにとって、
少し、難解な知恵の輪が、undo(はずす)することができました。

また、このサイトに観に来ます。

以上。
6. Posted by 桂木ユミ    2005年09月02日 18:09
>Five55さま
こんにちは。
この記事は、私が生まれて初めて書いた映画のレビュー(解説)です。理解していただける方がいらっしゃったことは、とても嬉しいです。
また遊びに来て下さい。

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