2005年07月05日

強がっている男たちの弱さを描く◆『アメリカン・ヒストリーX』4

05-07-06_08-08.jpg父親を黒人に殺されて以来、デレク(エドワード・ノートン)は、ナチスに傾倒する白人至上主義グループのリーダー的存在となった。弟のダニー(エドワード・ファーロング)は、そんな兄を憧れのまなざしで見ていた。ある日の夜、デレクは父の形見である車を盗もうとした黒人グループを惨殺し逮捕される。手錠をかけられながらも、勝ち誇った表情でダニーを見つめるデレク。しかし3年の刑期を終えて出所した時、デレクは別人のようになっていた。彼は自分のそれまでの行動を悔やみ、ネオナチのグループから足を洗うと言い出した。デレクを崇拝し、出所の日を待ち望んでいたダニーは、そんな兄の姿を見て戸惑う。

『ファイト・クラブ』のような暴力的な映画を想像していたら、全く違っていた。この作品ではアメリカならではの人種問題を表立ったテーマにしながら、憎しみ合う人間たちの愚かさや、腕力や権力に支えられて強がっている男たちの弱い部分を描いている。『オール・アバウト・マイ・マザー』の主人公の女性は、息子を失った悲しみを憎しみに変えることなく、全てを自分の中で消化して旅に出た。『アメリカン・ヒストリーX』のデレクは、父を失った悲しみを全ての有色人種への憎しみに変え、暴力的になることで自分を保とうとした。この2本の映画は、それぞれに女の強さと男の弱さを極端に表現している作品のような気がする。

『アメリカン・ヒストリーX』の中でも、やはり女たちは強い。デレクと弟のダニーがいつまでも父親の死に囚われてネオナチにのめり込んで行く一方、母親と姉は悲しみを乗り越えて自分たちの元の生活に戻ろうと努力している。本物の強さとは、腕力や権力なのではなく精神力なのだ。揺るがない精神力の強さに比べ、腕力や権力で築き上げた強さがどれだけもろいものなのかが、この作品で表現されている。そして、人を良くも悪くも変えることが出来るのは、やはり人の力であり、心であるということも。単純に“人種差別は悪いこと”とか“人間同士が憎み合うことは意味がない”と言っているだけの作品なのではなく、とても深いものを感じることが出来た作品だった。

しかし、肝心の人種問題についても、きちんとさりげなく訴えてくるものがある。黒人を殺したデレクは3年間で刑期を終えたのに対し、テレビを盗んだだけの黒人は、身に覚えの無い罪までもなすりつけられ、懲役6年を言い渡されている。これもアメリカの現実なのだろうか。これを映画の中で表現されたひとつの事実として捉えると、消防士であったデレクの父親が勤務中に黒人の麻薬ディーラーに殺されたというエピソードも、もしかしたら警察が黒人の麻薬ディーラーを逮捕するためにでっち上げた嘘だったのかもしれない。そうだとすれば、この物語はますます悲しいものになってしまう。


(2000年5月、劇場にて鑑賞)
mocofleeks at 23:59 │Comments(17)TrackBack(7)お薦めの旧作映画 

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1. アメリカン・ヒストリーX  [ 映画チラシ館 ]   2005年07月13日 01:02
1998年 120分 監督 トニー・ケイ 出演者 エドワード・ノートン、エドワード・ファーロング、ビバリー・ダンジェロ 白人至上主義のカリスマ的リーダーの兄デレクをあがめる高校生のダニー。 だが、デレクは服役から帰るとダニーにグループに参加するなと言う。
2. アメリカン・ヒストリーX  [ しーの映画たわごと ]   2005年09月07日 17:06
アメリカン・ヒストリーX しー 評価 79点 よかったですねぇ。 エドワードノートンかっこいいですねぇ。演技もグッド。 ストーリーをなす背景には人種差別問題がありますが、私はこれを軸とは捉えませんでした。要は思想の問題だと思います。 だからこそ複....
3. アメリカン・ヒストリーX  [ しーの映画たわごと ]   2005年09月07日 17:07
アメリカン・ヒストリーX しー 評価 79点 よかったですねぇ。 エドワードノートンかっこいいですねぇ。演技もグッド。 ストーリーをなす背景には人種差別問題がありますが、私はこれを軸とは捉えませんでした。要は思想の問題だと思います。 だからこそ複....
4. アメリカン・ヒストリーX  [ Marさんは○○好き ]   2005年10月01日 11:01
病理に苦しむアメリカの現実を垣間見る。 いろんな人種が、入り混じるメルティング・
5. アメリカンヒストリーX  [ cinema or die ! ! ! ]   2005年11月25日 02:12
トニー・ケイ監督 エドワート・ノートン、エドワード・ファーロング共演 父を黒人に殺害された、白人至上主義ネオナチ・グループのリーダーデレクとその弟の物語り。あるグループとの抗争でデレクは殺人を犯し刑務所に入ります。そこで同じ白人にいたぶられ、黒人の少年...
6. アメリカンヒストリーX  [ cinema or die ! ! ! ]   2005年11月25日 02:13
トニー・ケイ監督 エドワート・ノートン、エドワード・ファーロング共演 父を黒人に殺害された、白人至上主義ネオナチ・グループのリーダーデレクとその弟の物語り。あるグループとの抗争でデレクは殺人を犯し刑務所に入ります。そこで同じ白人にいたぶられ、黒人の少年...
7. アメリカン・ヒストリーX  [ 映画まみれ ]   2006年03月15日 09:20
『アメリカン・ヒストリーX』(‘98/アメリカ) 監督:トニー・ケイ アメリカン・ヒストリーXとは、歴史の狭間にフタをされてしまったアメリカの本当の歴史。 Xと名のつく通り、そこには解答はないし終わりもない。 デレクはレイシズムの思想に傾倒...

この記事へのコメント

1. Posted by 由愛    2005年07月06日 10:12
TBありがとございます。
2. Posted by kura    2005年07月06日 10:44
TBありがとうございました
3. Posted by smile    2005年07月06日 11:05
トラックバックありがとうございました☆
鋭い視点でのコメント、フムフムと読ませていただきました^−^また良かったら遊びにきてくださいね〜
4. Posted by MASA    2005年07月06日 12:32
クレームのような形で失礼します、トラックバックに関しては色んな考え方がありますが、TBを利用しての誘導行為が多くなった最近では、本文中に相手先の紹介、リンクの記載は最低限のマナーと考える者も多いです。
特にアダルト系やアクセス数稼ぎのTBは悩みの種で、毎日のように削除に追われています、せっかくユミさんのように真摯なブログに取り上げられても、自分のエントリーへの記載が見当たらなければ誤解を生む事になります。
老婆心で失礼しました、繰り返しますがTB関してはもっとクールな考え方もあります、決して批判ではありません、これに懲りずにまた遊びに来て下さい、私もまたお邪魔します。
5. Posted by 桂木ユミ    2005年07月06日 12:54
>由愛さま、kuraさま
こちらこそありがとうごさいました。
また遊びに来て下さいね。

6. Posted by 桂木ユミ    2005年07月06日 12:56
>smileさま
こちらこそ、ありがとうございました。
また遊びに行かせていただきます。
7. Posted by 桂木ユミ    2005年07月06日 13:03
>MASAさま
こんにちは。
TBに関する考え方に相違があったようで、大変失礼を致しました。
私のように映画の感想を主に載せたBlogを立ち上げている者の立場ですと、
「他の人はこの映画にどう思ったのだろう」
「他の人は私の書いたものに対してどう思うのだろう」
という、意見の交換としてTBを利用させて頂いており、
その世界では、お互いにそれを認識していることが「普通」になってきてしまっているのが現状です。
なので、今回映画のタイトルだけて検索を行い、
MASAさんのポリシーを理解しないままTBしてしまったことをお詫び致します。
ただ、私は自分の書いたモノを他の人に読んでもらいたいという気持ちのみで、
とてもマジメに取り組んでおりますので、これに懲りずにまたぜひいらして下さい。
よろしくお願い致します。
8. Posted by MASA    2005年07月06日 14:52
ユミさん、こんにちは。
限られた文面で誤解を受けるかと危惧しましたが、真意を読み取って頂きホッとしています。
最近特にスパム行為が増え、自分のブログに訪れて下さった方に迷惑が掛かったり、不愉快な思いをさせることが多く、ナーバスに成っていた事をご承知下さい。
当方のプロバイダーは、CATV が母体なので、地域色が強く初心者が多く、メンバーシップが確立しています、コメントなどを見て頂ければその特殊性が分かると思います、実はそこに最近スパム行為が集中しており、しかも多くがライヴドアのアダルトサイトからだという偶然が重なった事もお知らせします。
不躾なコメントで失礼しました、今度は映画ファンとしてお邪魔します。
9. Posted by 桂木ユミ    2005年07月06日 18:41
>MASAさま
ありがとうございます。
誤解があったまま嫌な思いをさせてしまっていたらどうしようと、
内心ヒヤヒヤしていました。
私の方は「1本でも多くのいい映画を大勢の人に紹介し、その方たちに感動を分け与えること」を
コンセプトにBlogを公開しておりますので、またお暇な時に覗いてみて下さい。
これからもよろしくお願い致します。
10. Posted by TBありがとうございました。    2005年07月07日 06:54
またおまちしてます。私もこれから多くの映画を見ていきますので、よろしくです。
11. Posted by 桂木ユミ    2005年07月07日 07:37
>ようこさま(TBありがとうございましたさま?)
こちらこそありがとうございました。
また遊びに行かせて頂きます。
12. Posted by トラックバックありがとうございました。    2005年07月07日 13:36
レビューを読ませていただきました。
とても納得しました。
今後ともよろしくお願いします。
13. Posted by 桂木ユミ    2005年07月08日 06:41
>イチゴさま(トラックバックありがとうございました。さま?)
こんにちは。
映画には色んな解釈があると思いますが、同調して頂ければ幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。
14. Posted by だっち    2005年07月10日 11:51
遅くなりましたが・・・
TBありがとうございました♪
15. Posted by 桂木ユミ    2005年07月11日 06:18
>だっちさま
こんにちは。
こちらこそ、ありがとうございました。
またよろしくお願いします。
16. Posted by bamboohouse    2005年07月11日 12:14
TBありがとうございます!
オールアバウトマイマザーの場合は勝手に飛び出した息子がはねられたわけで、この映画とは状況が全然ちがうと思いました。
それから、アメリカにネオナチっているんでしょうか?ナチス的思想なのは確かですが…。
>警察が黒人の麻薬ディーラーを逮捕するためにでっち上げた嘘だったのかも
これはいいですね!でもそうすると父の本当の死因はなんだったのか、気になります。

あとTBですけれども、
>ただ、私は自分の書いたモノを他の人に読んでもらいたいという気持ちのみで
というのはTBしてもらった方も一緒でしょうから、TBするだけじゃなくってコメント残したりするとよいと思いますよ〜♪
17. Posted by 桂木ユミ    2005年07月12日 07:05
>bamboohouseさま
こんにちは。
「ネオナチ」という言葉は、公開当時に配給会社が使っていたものをそのまま引用したので、
本当のところはどうなのか、私にも分かりません。
実際、この映画を観たのはもう5年も前で記憶が…情けない話ですが。

TBに関しては色々な考え方があると思います。
bamboohouseさんのおっしゃることも、ごもっともだと思います。
ただ、今の私には私のところにコメントを残して下さった方ひとりひとりに、
出来るだけ丁寧に返答することで精一杯で、他の方のところにまで回れないという現実があります。
でも、せっかくですのでbamboohouseさんのところには足跡を残させていただきました。
これからもよろしくお願いします。

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