2006年02月22日
正常と異常の境界線◆『カミュなんて知らない』
2月21日(火)シネマスコーレにて都心にある大学キャンパス。“映像ワークショップ”を受講する学生たちは、高校生が犯した<不条理殺人>をテーマに、『タイクツな殺人者』と題された映画を製作することになった。クランクイン5日前、主演俳優が突然降板し、助監督の久田(前田愛)は代役探しに奔走する。一方、監督の松川(柏原収史)は妄信的な恋人ユカリ(吉川ひなの)の存在に悩まされていた。やがて、主役の代役に演劇サークルの池田(中泉英雄)が抜擢され、こうして撮影リハーサルが始まるが、<殺人>をめぐるテーマの解釈について、松川は久田や池田たちと対立を深めてゆく。果たして、狂騒と白熱の映画製作の渦中に投げ出された学生たちは、無事、『タイクツな殺人者』をクランクインさせることができるのだろうか…。(公式サイトより)
『カミュなんて知らない』――この映画のタイトルの持つ意味をずっと考えていた。映画を観れば答えは出てくると思ったが、結局、私には分からないままだった。『カミュなんて知らない』とは、誰がどういう気持ちで発した言葉なのだろう。
『カミュ』とは、作家アルベール・カミュのことで、1942年に『異邦人』という作品が絶賛されたらしいが、私は彼のことを知らない。この『カミュなんて知らない』という映画のベースにはカミュの『異邦人』があり、その『異邦人』という作品の主人公ムルソーは、「太陽がまぶしかったから」という理由で殺人を犯すらしい。その時、ムルソーの精神は正常だったのか、異常だったのか。そして2000年5月、愛知県豊川市で実際に起きた老婆刺殺事件。その犯人である男子高校生は、「人殺しを経験してみたかった。人を殺したらどうなるか、実験してみたかったと言ってもいいです」と言った。その時、彼の精神は正常だったのか、異常だったのか。その事件を題材にして映画を撮っている大学生たちが、映画を撮りながら彼の心理について考える…という作品になっている。私がカミュの『異邦人』について、もっと詳しく知っていれば、この映画はもっと面白く観ることが出来たのだろうと思う。
この映画に出てくる主人公の大学生の女の子は、好きな男の子が居る。でも、その男の子には彼女が居るから、その女の子は別の男の子と付き合っている。その彼氏が1週間、合宿で留守にしている間、彼女は3人の男性とキスをする。「やってはいけない」と分かっていることを、「もし、やってみたら自分はどうなるのだろう」と考えてやってみる。しかも、その中の1人は、自分が本当に好きな男の子だった。彼女は自責の念に駆られて、彼氏が合宿から帰って来たとき、別の男性とキスしたことを告白する。しかし、彼女はそれを「2人の男性とキスをした。したら自分がどうなるのか試してみたかった」と言った。自分が本当に好きだと思っている男の子とのキスのことは告白できなかったのだ。リアルな心理描写だな…と思った。彼女は異常だったのだろうか。私はそうは思えなかった。同じ「もし、やってみたら自分はどうなるのだろう」と考えてやってみることで、彼氏でない男性とキスすることと、人を殺すことにどういう違いがあるのだろう。私には「異常」の定義が分からなくなってきた。
正常と異常の境界線なんて些細なことだったりする。「やってはいけない」と分かっていることを、「もし、やってみたら自分はどうなるのだろう」と考えることは、私にだってある。理性が私にストップをかけてくれるから、やらないで済んでいるだけなのだろう。例えばクルマで高速道路を運転していて、緩やかなカーブに差し掛かった時、「このままハンドルを切らないで真っ直ぐ進んだら、私は中央分離帯に激突して死ぬのかな」と思うことがある。そう思いながらカーブの方向にハンドルを切る。私だけではない。些細なことであれ、誰にでもそんなことを思うことはあるに違いない。きっと正常と異常の境界線は紙一重なのだ。
『カミュなんて知らない』――この映画のタイトルの持つ意味は、もしかしたら私自身が正常と異常の境界線をさ迷いながら発している言葉なのかもしれない。何だか、頭をガツンと叩かれたような…というよりは、心の奥深いところまでグサリとささってくる、そんな作品だった。
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1. カミュなんて知らない [ 日っ歩??美味しいもの、映画、子育て...の日々?? ] 2006年02月22日 23:55
新装なったユーロ・スペースに初めて行きました。相変わらず(更に?)、狭い座席でしたが、前よりは、スクリーンは観やすくなっていましたし、さすがに椅子等が綺麗でした。立地というか、周辺の環境は、特に夜は怪しげで、今ひとつでしたが...。このシアターNの入って...
2. 「人を殺してみたかった」 [ CINECHANの映画感想 ] 2006年02月23日 23:39
12「カミュなんて知らない」(日本)
ある都心の大学で学生たちが映画を製作しようとしていた。ごく平凡な高校生が犯した老婆刺殺事件を題材にしたものだった。カミュの作品「異邦人」の主人公ムルソーを彷彿させる??不条理殺人??と呼ばれた事件だった。間もなくクラン...
3. 時を経て、より印象が強まる映画 『カミュなんて知らない』 [ 海から始まる!? ] 2006年02月25日 04:42
・登場人物たちの映画に関する知識が、マニアックな部分がありつつも、あまりにも無知な部分もあって、チグハグ感がぬぐえない。
4. 『カミュなんて知らない』 [ かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY ] 2006年02月25日 23:52
映画な映画はおもしろみにあふれている。現代の学生は共感できるの?
「異邦人」は一応読んだけど、カミュなんてほとんど知らないし、柳町監督のことも知らなかったし、前田愛と前田亜季の判別の仕方も知らないけど。やばっ
都心の大学キャンパス。“映像ワークショッ...
5. カミュなんて知らない [ ★過去発〜現在経由〜未来行☆ ] 2006年02月26日 21:35
柏原収史 吉川ひなの 前田愛 中泉英雄 黒木メイサ 田口トモロヲ
玉山鉄二 阿部進之介 鈴木淳評 伊崎充則 金井勇太 たかだゆうこ
柳家小三治 本田博太郎他出演。
脚本、監督柳町光男。
あらすじ
都会の大学の映像ワークショップで、実際に2000年5....
6. カミュなんて知らない/柏原収史、吉川ひなの、前田愛 [ カノンな日々 ] 2006年03月09日 12:40
7. カミュなんて知らない(06・日) [ no movie no life ] 2006年04月18日 16:13
「タブロイド」レビューで書いたとおり、「カミュなんて知らない」を見てきた。
?
カミュは「異邦人」で「太陽が眩しかったから」人を殺したムルソー青年を描いた。
そして、数年前の日本で「人を殺してみたかった」と凶行に及んだ男子高校生がいた。
?
さて...
8. カミュなんて知らない [ 映画評論家人生 ] 2006年05月03日 01:41
OS名画座 本人が読むことはないから書くが、実を言うと、私は柳町光男監督は亡くなったものだと思って
9. シネマ日記 カミュなんて知らない [ skywave blog ] 2006年07月03日 22:41
映画の楽しみ方の一つに、解釈する楽しみがある。この作品は,観客に映画というものをどう解釈するか、問いかけてくる映画です。
映画の中で、映画づくりに打ち込こむ学生たち。
10. カミュなんて知らない [ いつか深夜特急に乗って ] 2006年07月24日 05:59
「カミュなんて知らない」★★★★ (盛岡フォーラム3)200
この記事へのコメント
1. Posted by
かのん
2006年03月09日 13:11
私もこの作品を観てとても気に入りました。実は久田さんがなぜ松川くんとのキスだけ告白しなかったのか疑問だったのですが、ユミさんのレビューを読んでちょっと納得です。人生という日常の中に訪れる非日常がいろんな経験を与え成長していくんだなぁと感じました。
2. Posted by
桂木ユミ
2006年03月10日 01:24
>かのんさま
こんにちは。
彼女が「2人」と言った瞬間、私はピーンと来ました。きっと私自身もそういう人間なんでしょうね。私は「若いっていいなぁ」と何度も思いました。あんなふうにドキドキする経験、もうありませんからね…。
こんにちは。
彼女が「2人」と言った瞬間、私はピーンと来ました。きっと私自身もそういう人間なんでしょうね。私は「若いっていいなぁ」と何度も思いました。あんなふうにドキドキする経験、もうありませんからね…。
3. Posted by
カオリ
2006年04月18日 16:12
こんにちは。
正常と異常の境界。等身大の大学生が、悩み、迷いながら答えを探し続け、映画が作られてる・・・そんな気がしました。
正常と異常の境界。等身大の大学生が、悩み、迷いながら答えを探し続け、映画が作られてる・・・そんな気がしました。
4. Posted by
桂木ユミ
2006年04月22日 09:33
>カオリさま
こんにちは。
正常と異常の境界を描いている作品にしては、妙にリアルだったような気がします。人間は誰でも正常と異常を持ち合わせているからでしょうか…。
こんにちは。
正常と異常の境界を描いている作品にしては、妙にリアルだったような気がします。人間は誰でも正常と異常を持ち合わせているからでしょうか…。






