2004年11月03日
1MBのコトバが語った"現在"◆『ジョゼと虎と魚たち』
11月3日(水・祝)晴れ / 『ジョゼと虎と魚たち』(DVD)
私が『突発性難聴』を発症したのは、ちょうど1ヶ月前の今日のことだった。この1ヶ月は、3月に彼を亡くしたあとで過ごした1ヶ月のように長かった。そして、1ヶ月前には想像もしていなかった自分がいまここに居る。1ヶ月前には、またこんなふうにモノを書き始めるなんて思いもしなかったことだった。
私が自分のウェブサイトを完全に放棄したのは2000年9月のことだった。それから、私は書くべき言葉を失った。作家やミュージシャンが「何も書けなくなる」という状態が、私はとてもよく分かる。何か書こうと思っても、何も思い浮かばない。頑張れば頑張るほど、頭の中が真っ白になってしまうのだ。
私のパソコンの中に、2003年1月1日の日記が残っていた。しかし、何か書こうとしたが続けられなくなり、途中で終わっている。最初に「今回の日記もいつまで続くか分からない」と書きながら、その日1日分も書き終わらないうちに投げ出していた。
そのあと私は箇条書きで、その日にあった「嬉しかったこと」を記していた。前日の大晦日に2002年を振り返った時、何が楽しかったのか全く思い出せなかったので、せめて毎日1つずつでも「楽しかったこと」「嬉しかったこと」を書き留めようと思ったのだ。自分がいま幸せなのかどうか分からず、手探りで何かを必死に探し続けている姿が読み取れた。
1月1日 電車の乗り継ぎがすごく良くて、実家まで1時間で着けた。
1月2日 帰りに駅の自転車置き場でナンパされたけど、相手がしつこくなかった。
1月3日 欲しかった映画のプレスシートとスチール写真をオークションで落札できた。
1月4日 高島屋のバーゲンでセーターを2枚買った。
1月5日 雪がたくさん降った。キレイだった。
1月6日 ぶりと大根と小松菜の煮物を作った。おいしかった。
1月7日 試写会で久しぶりにみんなに会って、一緒にゴハンを食べに行った。
1月8日 岡田さんから素敵な版画の年賀状が届いた。
1月9日 ヘイちゃんが「最近元気ない?」と気にかけてくれた。
1月10日 久しぶりに読書を始めた。数年前に買ったまま読んでいなかった『群青の夜の羽毛布』。
1月11日 いい天気だったので、布団を干した。
1月12日 御殿場までドライブした。いい天気で暖かくて最高のドライブ日和だった。
1月13日 掃除した。キレイになってちょっとキモチいい。
1月14日 何か、今週は仕事が余裕で片付きそうな予感。
1月14日で、この小学生が書いたような、どうでもいいような日記は終わっていた。2002年に何が楽しかったのか思い出せなかったのは、私自身が何かを見つけようとするアンテナを伸ばしていなかっただけのことで、「楽しかったこと」「嬉しかったこと」なんて、探そうと思えばどこにでも転がっていることに気付いたのだ。しかし、私はそれを広げて表現する力を失っていた。これ以上、この小学校低学年のような日記を書いて行くことが無意味に思えてやめた。言葉を失っていた時期、私は14日かけて14行の日記をやっとの思いで書いていたのだった。
昨日の日記をアップした時点で、このBlogの使用容量が1MBになった。ここで使える容量は全部で30MBなので、たった1ヶ月でその30分の1を使ってしまったことになる。なぜ今、こんなに次から次へと言葉が出てくるのか、自分でも分からない。いつまで続くのか、それも分からない。ただ、この1MBのコトバが、今の私の本当の姿を映していることだけは間違いない。
今日は名古屋市内の友人宅に夕食に誘われたのだけれど、風邪っぴきなので遠慮しておいた。ホントは行きたかったが、今度の土曜日は彼の月命日でお墓にお参りに行くことにしているので、今日のところは無理するのはやめておいた方がいいと思ったのだ。でも、天気が良かったので布団を干し、部屋の掃除をし、念願のコタツを出すことにした。やってみると、これが結構、重労働だった。おとなしくしているつもりだったのに、何やってんだか…。でもこれで、もうどんなに寒くなっても大丈夫だもん。
ひと通りの仕事をやり終えた私は、"あの映画"が観たくなった。私が今年観た中で一番好きな日本映画だ。最初に観たのは1月20日。予告編を観た時からすごく楽しみにしていた映画だったので、名古屋で公開4日目の最初のサービスデーに、待ち構えたように観に行った。
2度目に観たのは2月27日。劇場公開最終日だった。もう一度どうしても観たくて観に行った。それは、彼が亡くなる8日前だった。
『ジョゼと虎と魚たち』
初回限定版で買ったこのDVDも、例のごとく封が開いていない。彼が亡くなってから、私がこの映画を観るのは初めてだった。
ごく普通の大学生・恒夫は、ある日自分を"ジョゼ"と名乗る足の悪い女の子と出会う。風変わりなジョゼに興味を持った恒夫は、次第にそれが愛情へと変わって行くのに気付く。やがてふたりは互いの気持ちを確認し合うが、ジョゼはいつか恒夫が去って行くことを知っていた。
オープニングは恒夫の回想のナレーションで始まる。ジョゼと過ごした日々を懐かしそうに語る恒夫。つまり、最初からこのふたりが"現在一緒に居ない"ということを観客は知らされる。ふたりはどのようにして惹かれ合い、愛し合い、気持ちがすれ違い、別れることになったのか。誰にでもある、忘れられない昔の恋愛をふと思い出してしまうような、切ない映画だ。でも、私がこの映画を好きなのは、ただ切ないだけの映画ではないからだ。暗い海の底に沈んでいたジョゼが、恒夫と出会うことで光を見つける。そして、やがては自分の力で泳いで行くことを覚えるのだ。ラストシーンのジョゼの凛とした後姿が、心に残る作品だった。
彼が亡くなって1週間後のことだった。私は自転車で近くのスーパーに買い物に出掛けた。それまでは、いつも彼が車に乗せて連れていってくれていた場所だった。帰り道、カゴ一杯に荷物を詰め込んだ自転車のペダルをこぎながら、ものすごく淋しくなって泣きそうになった。
「彼が死んじゃったから、これから私は毎週こうやって買い物に行かなきゃならない」
「彼が死んじゃったから、もう私はどこへも連れていってもらえない」
そう思い、途方に暮れ、卑屈になっていた。
そんな時ふと、"あの映画"のジョゼの後姿を思い出した。私が大好きだった、あのラストシーンだ。ほっぺたに一発ビンタをもらって、目が覚めたような気持ちだった。
「私もジョゼのように生きてみよう」その時、そう思った。「彼がもう車に乗せてくれないなら、私が自分で運転すればいい」と。そういえば、彼もいつも言っていた。
「免許を持ってるなら車に乗ればいいのに。世界が広がるよ」って。私はジョゼの姿と彼の言葉に支えられ、15年ぶりにクルマのハンドルを握ることを決めたのだった。もしこの映画を観ていなかったら、私が前を向いて歩けるようになるのに、もっともっと時間が掛かっただろうと思う。私にとって『ジョゼと虎と魚たち』は、本当に大切な1本の映画になった。

ジョゼと虎と魚たち 特別版 (初回限定生産2枚組)
私が『突発性難聴』を発症したのは、ちょうど1ヶ月前の今日のことだった。この1ヶ月は、3月に彼を亡くしたあとで過ごした1ヶ月のように長かった。そして、1ヶ月前には想像もしていなかった自分がいまここに居る。1ヶ月前には、またこんなふうにモノを書き始めるなんて思いもしなかったことだった。
私が自分のウェブサイトを完全に放棄したのは2000年9月のことだった。それから、私は書くべき言葉を失った。作家やミュージシャンが「何も書けなくなる」という状態が、私はとてもよく分かる。何か書こうと思っても、何も思い浮かばない。頑張れば頑張るほど、頭の中が真っ白になってしまうのだ。
私のパソコンの中に、2003年1月1日の日記が残っていた。しかし、何か書こうとしたが続けられなくなり、途中で終わっている。最初に「今回の日記もいつまで続くか分からない」と書きながら、その日1日分も書き終わらないうちに投げ出していた。
そのあと私は箇条書きで、その日にあった「嬉しかったこと」を記していた。前日の大晦日に2002年を振り返った時、何が楽しかったのか全く思い出せなかったので、せめて毎日1つずつでも「楽しかったこと」「嬉しかったこと」を書き留めようと思ったのだ。自分がいま幸せなのかどうか分からず、手探りで何かを必死に探し続けている姿が読み取れた。
1月1日 電車の乗り継ぎがすごく良くて、実家まで1時間で着けた。
1月2日 帰りに駅の自転車置き場でナンパされたけど、相手がしつこくなかった。
1月3日 欲しかった映画のプレスシートとスチール写真をオークションで落札できた。
1月4日 高島屋のバーゲンでセーターを2枚買った。
1月5日 雪がたくさん降った。キレイだった。
1月6日 ぶりと大根と小松菜の煮物を作った。おいしかった。
1月7日 試写会で久しぶりにみんなに会って、一緒にゴハンを食べに行った。
1月8日 岡田さんから素敵な版画の年賀状が届いた。
1月9日 ヘイちゃんが「最近元気ない?」と気にかけてくれた。
1月10日 久しぶりに読書を始めた。数年前に買ったまま読んでいなかった『群青の夜の羽毛布』。
1月11日 いい天気だったので、布団を干した。
1月12日 御殿場までドライブした。いい天気で暖かくて最高のドライブ日和だった。
1月13日 掃除した。キレイになってちょっとキモチいい。
1月14日 何か、今週は仕事が余裕で片付きそうな予感。
1月14日で、この小学生が書いたような、どうでもいいような日記は終わっていた。2002年に何が楽しかったのか思い出せなかったのは、私自身が何かを見つけようとするアンテナを伸ばしていなかっただけのことで、「楽しかったこと」「嬉しかったこと」なんて、探そうと思えばどこにでも転がっていることに気付いたのだ。しかし、私はそれを広げて表現する力を失っていた。これ以上、この小学校低学年のような日記を書いて行くことが無意味に思えてやめた。言葉を失っていた時期、私は14日かけて14行の日記をやっとの思いで書いていたのだった。
昨日の日記をアップした時点で、このBlogの使用容量が1MBになった。ここで使える容量は全部で30MBなので、たった1ヶ月でその30分の1を使ってしまったことになる。なぜ今、こんなに次から次へと言葉が出てくるのか、自分でも分からない。いつまで続くのか、それも分からない。ただ、この1MBのコトバが、今の私の本当の姿を映していることだけは間違いない。
今日は名古屋市内の友人宅に夕食に誘われたのだけれど、風邪っぴきなので遠慮しておいた。ホントは行きたかったが、今度の土曜日は彼の月命日でお墓にお参りに行くことにしているので、今日のところは無理するのはやめておいた方がいいと思ったのだ。でも、天気が良かったので布団を干し、部屋の掃除をし、念願のコタツを出すことにした。やってみると、これが結構、重労働だった。おとなしくしているつもりだったのに、何やってんだか…。でもこれで、もうどんなに寒くなっても大丈夫だもん。
ひと通りの仕事をやり終えた私は、"あの映画"が観たくなった。私が今年観た中で一番好きな日本映画だ。最初に観たのは1月20日。予告編を観た時からすごく楽しみにしていた映画だったので、名古屋で公開4日目の最初のサービスデーに、待ち構えたように観に行った。
2度目に観たのは2月27日。劇場公開最終日だった。もう一度どうしても観たくて観に行った。それは、彼が亡くなる8日前だった。
『ジョゼと虎と魚たち』
初回限定版で買ったこのDVDも、例のごとく封が開いていない。彼が亡くなってから、私がこの映画を観るのは初めてだった。
ごく普通の大学生・恒夫は、ある日自分を"ジョゼ"と名乗る足の悪い女の子と出会う。風変わりなジョゼに興味を持った恒夫は、次第にそれが愛情へと変わって行くのに気付く。やがてふたりは互いの気持ちを確認し合うが、ジョゼはいつか恒夫が去って行くことを知っていた。
オープニングは恒夫の回想のナレーションで始まる。ジョゼと過ごした日々を懐かしそうに語る恒夫。つまり、最初からこのふたりが"現在一緒に居ない"ということを観客は知らされる。ふたりはどのようにして惹かれ合い、愛し合い、気持ちがすれ違い、別れることになったのか。誰にでもある、忘れられない昔の恋愛をふと思い出してしまうような、切ない映画だ。でも、私がこの映画を好きなのは、ただ切ないだけの映画ではないからだ。暗い海の底に沈んでいたジョゼが、恒夫と出会うことで光を見つける。そして、やがては自分の力で泳いで行くことを覚えるのだ。ラストシーンのジョゼの凛とした後姿が、心に残る作品だった。
彼が亡くなって1週間後のことだった。私は自転車で近くのスーパーに買い物に出掛けた。それまでは、いつも彼が車に乗せて連れていってくれていた場所だった。帰り道、カゴ一杯に荷物を詰め込んだ自転車のペダルをこぎながら、ものすごく淋しくなって泣きそうになった。
「彼が死んじゃったから、これから私は毎週こうやって買い物に行かなきゃならない」
「彼が死んじゃったから、もう私はどこへも連れていってもらえない」
そう思い、途方に暮れ、卑屈になっていた。
そんな時ふと、"あの映画"のジョゼの後姿を思い出した。私が大好きだった、あのラストシーンだ。ほっぺたに一発ビンタをもらって、目が覚めたような気持ちだった。
「私もジョゼのように生きてみよう」その時、そう思った。「彼がもう車に乗せてくれないなら、私が自分で運転すればいい」と。そういえば、彼もいつも言っていた。
「免許を持ってるなら車に乗ればいいのに。世界が広がるよ」って。私はジョゼの姿と彼の言葉に支えられ、15年ぶりにクルマのハンドルを握ることを決めたのだった。もしこの映画を観ていなかったら、私が前を向いて歩けるようになるのに、もっともっと時間が掛かっただろうと思う。私にとって『ジョゼと虎と魚たち』は、本当に大切な1本の映画になった。
ジョゼと虎と魚たち 特別版 (初回限定生産2枚組)
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1. ジョゼと虎と魚たち [ 公務員に転職しようとしてる人の日常。 ] 2005年09月17日 18:44
私の大好きな映画です。邦画では一番好きです。
こういう映画を、「珠玉のような作品」と呼ぶのだと思います。
この映画の空気に、いつまでも包まれていたい、と思いました。
アスミック
ジョゼと虎と魚たち 特別版 (初回限定生産2枚組)
原作は田...
2. 『ジョゼと虎と魚たち』・テレビ [ しましまシネマライフ! ] 2006年03月20日 01:22
12/31 1:50??テレビ東京放送『ジョゼと虎と魚たち』の録画を観た。 《私のお気に入り度:★★☆
この記事へのコメント
1. Posted by
tarakopasuta
2005年09月17日 18:43
こちらもTBさせていただきます。
わたしも「ジョゼ・・・」は大好きです。
ユミさんにとっても大切な映画なのですね。
私もこの映画を観たことを大事にしていきたいと思います。
わたしも「ジョゼ・・・」は大好きです。
ユミさんにとっても大切な映画なのですね。
私もこの映画を観たことを大事にしていきたいと思います。
2. Posted by
桂木ユミ
2005年09月18日 19:48
>tarakopasutaさま
TBありがとうございます。
私にとってこの作品は、一生に観る映画のうちの何本かに入るくらい大切な映画になりました。心が迷ったときに観たい作品です。ずっと大切にしていきます。
TBありがとうございます。
私にとってこの作品は、一生に観る映画のうちの何本かに入るくらい大切な映画になりました。心が迷ったときに観たい作品です。ずっと大切にしていきます。






