映画の感想(2006年02月)

2006年03月02日

人種問題がぶつかり合う群像劇◆『クラッシュ』5

5e983ccb.jpg2月27日(月)TOHOシネマズ木曽川にて

冬、クリスマスも間近のロサンゼルス。深夜、ロス市警の黒人刑事グラハム(ドン・チードル)と、同僚でスペイン系の恋人のリア(ジェニファー・エスポジト)は、交通事故に巻き込まれた。車から降り立ったグラハムは、偶然事故現場脇で発見された、若い黒人男性の死体の捜査に引きつけられた。その前日──。夜のウェストウッド。若い黒人のアンソニー(リュダクリス)とピーター(ラレンツ・テイト)は肌の色の違いで差別されることにイラついている。彼らを見た瞬間怯えたような素振りを見せた白人女性ジーン(サンドラ・ブロック)に腹を立てた2人は、彼女とその夫で地方検事のリック(ブレンダン・フレイザー)が車に乗り込むところへ銃を突きつけ、車を強奪し逃走した。しかし慌てていた2人は、車を走らせている最中、暗い路地で老いたアジア系男性を轢いてしまう。


今、会社の私の部署には、2ヶ月間の契約で中国人の研修生が来ている。25歳のその人は、母国語の中国語はもちろんのこと、日本語もペラペラで、他に英語と韓国語が出来るという。日本語は、数年前に日本に来た時は全く分からなかったが、自分自身でものすごい勉強をして覚えたのだと言う。私たち社員は、その人に営業用のパソコンの操作や電話の応対など、事務処理の基本を教えているのだが、言葉の面で困ったことは全くない。顔を見ても中国人には思えないし、日本語も流暢。その人とは外国人という壁を取り払って仲良くしているし、向こうも私たちにそういうふうに接して来る。でも、私たちはその人のことをどこかで常に「日本人とは違う、中国人の研修生」という目で見ている。今のところ、仕事は何の問題もなく進んでいるが、もし、その人と何かしら文化の壁でぶつかったら、私たちはきっと、「やっぱり中国人の研修生だからね」と言うに違いない。違う人種の人間が共存していくのに、意識して差別している気持ちはないにしろ、大きかれ小さかれ、「人種差別」というのは、何か問題が起こったときに必ず発生するのだと思う。

この『クラッシュ』を観る前に、私は『スパングリッシュ』という映画を観た。幼い娘を連れてメキシコからアメリカ・ロサンゼルスに不法入国してきた母親の話で、物語は裕福な白人家庭のハウスキーパーとなった彼女の目から見た、文化のギャップを描いていた。『スパングリッシュ』とは、英語とスペイン語の混声語のことで、スパングリッシュを話す人種は、アメリカ全土で4千万人近くも居るのだという。それ以外にも、東洋系の人が住んでいたり、『クラッシュ』にも出てきたペルシャ人が住んでいたり、ロサンゼルスという都市だけを取り上げても、そこは本当に多民族国家とも言えるのだ。その中で、純粋な白人はいったいどれくらい住んでいるのだろう。『クラッシュ』を観る前に、『スパングリッシュ』を観ていたおかげで、人種の違う彼らがお互いにどんな感情を持っているのかが、よく分かった気がする。

『クラッシュ』では、白人が黒人とぶつかり合い、黒人が異国人とぶつかり合う。白人は黒人を見下し、黒人はアジア人を見下す。登場する白人警官の一人は人種差別主義者で、黒人を見るだけで「何か悪いことをしているのではないだろうか」と考え、過剰な職務質問を行う。もう一人の白人警官は彼の態度が嫌で、パートナーを外れるが、結局は自分が追い詰められると、罪を黒人になすりつけて逃げていく。

どれだけ時間が経っても、決してかき消すことが出来ない人種の壁。それはアメリカに居ても、日本に居ても変わらない。ただ違っているのは、アメリカ人は銃を持っていて、日本人は持っていないということだけだ。もし、日本がアメリカのように、自由に銃を持てる国家だとしたら? ここで描かれている問題は、きっと他人事ではなくなるはずだ。東南アジア系の浅黒い顔の外国人を見ただけで銃を持っていると思い込み、この作品でサンドラ・ブロックが演じたジーンのように、怯えて夫の腕をつかんで警戒するに違いない。

宣伝用のチラシには「それはあなたも流したことのある、あたたかい涙。」と書いてあった。果たしてそういう作品だったろうか。私には、とても根が深い問題に、鋭く切り込みを入れた問題作に感じられ、強く心に残った。久しぶりに「もう一度観たい」と思う作品に出会った気がする。
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2006年02月25日

母の娘を思う気持ちは偉大◆『スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと』4

faabf63c.jpg2月23日(木)イオンシネマワンダーにて

愛する娘クリスティーナのために、故郷のメキシコを離れ、ロサンゼルスに移り住んだシングルマザー、フロール(パズ・ヴェガ)。よりよい職を求め、ハウスキーパーとなった彼女が出会ったのは、悪気はないが無神経な専業主婦のデボラ(ティア・レオー二)と、ロスでも評判のいいレストランのオーナーシェフであるジョン(アダム・サンドラー)の夫婦が営む、見かけは裕福で幸福そうな、しかし、今にも崩れそうなクラスキー家だった。強引なデボラに乞われ、クラスキー家のマリブの夏の別荘に住み込むことになるフロールとクリスティーナ。贅沢で華やかな生活に喜ぶクリスティーナだが、フロールはクラスキー家に娘を住まわせることに対して、心配を隠せない。そんなある日、デボラやジョンがなにげなく取ったクリスティーナに対する行動が、フロールを激怒させてしまう。怒りを英語で表現出来ないフロール。クリスティーナに通訳させるが、それは互いのためによくないこと。それまでほとんど英語を話そうとしなかったフロールだが、大枚をはたいて英語を学ぶことにする。

「スパングリッシュ」とは、アメリカで暮らす4千万人近くのラテン系の人々によって話されている、スペイン語と英語の混成語のことらしい。言葉が通じないということは、自分の意思が通じないということ。私もロサンゼルスに旅行して、ファーストフード店で自分がオーダーしたものと違うものが出てきた時、文句を言うことも出来ずに我慢してそれを食べた記憶がある。そのオーダーを受けた店員もスパングリッシュを話す女性だった。彼女が純粋なアメリカ人だったら、もしかしたら私のカタコト英語も理解してくれたかもしれない。些細なことだが、言葉が上手く話せない、相手が話していることが分からない。意思の疎通が出来ないということは悲しいことだな、と思った。

この映画では「言葉の壁」がテーマになっているが、同時に文化の違いもしっかりと描かれている。娘・クリスティーナのためにアメリカに移り住んだフロールは、最初は英語を覚えようとしない。彼女は自分がメキシコ人であるという誇りは捨てていないのだ。

専業主婦のくせにハウスキーパーを雇い、自分はシェイプアップに自分の時間を使うことにしか興味がないデボラと、その家のハウスキーパーとなったフロールは、子供の育て方にも意見を対立させる。アメリカ人家庭でのアメリカ的考えに娘が影響されることをひどく心配したフロールは、娘のために英語を覚える努力を始める。自分の意思をクラスキー家に伝えるためには、娘に「それ」を通訳させなければいけないという現実に、自分自身が情けなくなくなり、それは娘のためにもよくないことだと考えるのだ。母親の愛というのは偉大なのだなと、改めて感じさせられるシーンだった。

デボラを演じるティア・レオー二と、フロールを演じるパズ・ヴェガが、あまりにも対照的で面白い。そして、クレジットは一番最初なのに、完全に主役をパズ・ヴェガに譲っているアダム・サンドラーの独特の情けなさも良かった。
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2006年02月22日

正常と異常の境界線◆『カミュなんて知らない』4

ffc99985.jpg2月21日(火)シネマスコーレにて

都心にある大学キャンパス。“映像ワークショップ”を受講する学生たちは、高校生が犯した<不条理殺人>をテーマに、『タイクツな殺人者』と題された映画を製作することになった。クランクイン5日前、主演俳優が突然降板し、助監督の久田(前田愛)は代役探しに奔走する。一方、監督の松川(柏原収史)は妄信的な恋人ユカリ(吉川ひなの)の存在に悩まされていた。やがて、主役の代役に演劇サークルの池田(中泉英雄)が抜擢され、こうして撮影リハーサルが始まるが、<殺人>をめぐるテーマの解釈について、松川は久田や池田たちと対立を深めてゆく。果たして、狂騒と白熱の映画製作の渦中に投げ出された学生たちは、無事、『タイクツな殺人者』をクランクインさせることができるのだろうか…。(公式サイトより)


『カミュなんて知らない』――この映画のタイトルの持つ意味をずっと考えていた。映画を観れば答えは出てくると思ったが、結局、私には分からないままだった。『カミュなんて知らない』とは、誰がどういう気持ちで発した言葉なのだろう。

『カミュ』とは、作家アルベール・カミュのことで、1942年に『異邦人』という作品が絶賛されたらしいが、私は彼のことを知らない。この『カミュなんて知らない』という映画のベースにはカミュの『異邦人』があり、その『異邦人』という作品の主人公ムルソーは、「太陽がまぶしかったから」という理由で殺人を犯すらしい。その時、ムルソーの精神は正常だったのか、異常だったのか。そして2000年5月、愛知県豊川市で実際に起きた老婆刺殺事件。その犯人である男子高校生は、「人殺しを経験してみたかった。人を殺したらどうなるか、実験してみたかったと言ってもいいです」と言った。その時、彼の精神は正常だったのか、異常だったのか。その事件を題材にして映画を撮っている大学生たちが、映画を撮りながら彼の心理について考える…という作品になっている。私がカミュの『異邦人』について、もっと詳しく知っていれば、この映画はもっと面白く観ることが出来たのだろうと思う。

この映画に出てくる主人公の大学生の女の子は、好きな男の子が居る。でも、その男の子には彼女が居るから、その女の子は別の男の子と付き合っている。その彼氏が1週間、合宿で留守にしている間、彼女は3人の男性とキスをする。「やってはいけない」と分かっていることを、「もし、やってみたら自分はどうなるのだろう」と考えてやってみる。しかも、その中の1人は、自分が本当に好きな男の子だった。彼女は自責の念に駆られて、彼氏が合宿から帰って来たとき、別の男性とキスしたことを告白する。しかし、彼女はそれを「2人の男性とキスをした。したら自分がどうなるのか試してみたかった」と言った。自分が本当に好きだと思っている男の子とのキスのことは告白できなかったのだ。リアルな心理描写だな…と思った。彼女は異常だったのだろうか。私はそうは思えなかった。同じ「もし、やってみたら自分はどうなるのだろう」と考えてやってみることで、彼氏でない男性とキスすることと、人を殺すことにどういう違いがあるのだろう。私には「異常」の定義が分からなくなってきた。

正常と異常の境界線なんて些細なことだったりする。「やってはいけない」と分かっていることを、「もし、やってみたら自分はどうなるのだろう」と考えることは、私にだってある。理性が私にストップをかけてくれるから、やらないで済んでいるだけなのだろう。例えばクルマで高速道路を運転していて、緩やかなカーブに差し掛かった時、「このままハンドルを切らないで真っ直ぐ進んだら、私は中央分離帯に激突して死ぬのかな」と思うことがある。そう思いながらカーブの方向にハンドルを切る。私だけではない。些細なことであれ、誰にでもそんなことを思うことはあるに違いない。きっと正常と異常の境界線は紙一重なのだ。

『カミュなんて知らない』――この映画のタイトルの持つ意味は、もしかしたら私自身が正常と異常の境界線をさ迷いながら発している言葉なのかもしれない。何だか、頭をガツンと叩かれたような…というよりは、心の奥深いところまでグサリとささってくる、そんな作品だった。
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2006年02月21日

ラストで全てが破綻するサスペンス◆『ブラックキス』2

e480ef0a.jpg2月20日(月)TOHOシネマズ木曽川にて

殺害後、死体を芸術的に装飾する猟奇殺人事件が発生した。芸能プロデューサーとファッションモデルが殺害され、その手口は警察さえも震え上がらせる残虐、かつ完璧なものだった。モデルを目指し上京してきたアスカ(橋本麗香)は、偶然その現場を目撃してしまう。それはアスカとルームメイトのカスミ(河村カオリ)の周りで起こる猟奇殺人の幕開けだった。アスカとカスミを執拗に追うカメラマンのタツオ(安藤政信)、この事件に挑む刑事のユウスケ(松岡俊介)。偶然によって呼び集められた4人の若者は、恐怖の迷宮へと迷い込んでいく。警察の推理をあざ笑うかのように「殺しの芸術家」による犯行は重ねられ、ブラックキスが必ず現場に残す、「黒いキスマーク」は増えていくのだった…。そんな中、ユウスケは特殊犯罪プロファイリングの専門家と噂される伝説の元刑事、鷹山から「インターポール国際犯罪者番号8099」という謎の犯罪者について聞かされる。そして鷹山は「犯人の最大の武器は“恐怖”なのです」と告げる。この美しくも残虐な犯行の目的は何か?そして次の犠牲者は?愛と友情、信頼と疑惑が交差し、それぞれが犯人ではとお互いを疑う中、新たな殺人が起こるのだった。(公式サイトより)


予告編でキレまくっていたオダギリジョーが気になって、彼見たさに行った作品。それ以外には特に興味はなかったのだが、手塚眞監督の映像も凝っていたし、猟奇殺人を心理描写でグイグイと引っ張っぱられ、これでしっかりとしたオチさえあれば、上級のサスペンス作品になっていたと思う。しかし、オチがとんでもなくショボかった。それまでの数々の猟奇殺人の意味を、全て否定するようなエンディング。だいたい、「ブラックキス」にも、何の意味もないじゃん…。引っ張るだけ引っ張り、期待させておいて、その期待を見事に裏切られ、がっかりした。で、肝心のオダギリジョーの出演時間は約2〜3分。それでも、キレまくっている彼の演技を見ることが出来ただけで良かったとしようか。
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「報復」に同調出来ない◆『ミュンヘン』2

703bed2d.jpg2月18日(土)TOHOシネマズ名古屋ベイシティにて

1972年9月5日、開催中だったミュンヘン・オリンピックで、パレスチナゲリラ"ブラック・セプテンバー 黒い九月"によるイスラエル選手団襲撃事件が起こった。11人のアスリートが殺された。深い哀しみの中、政府が下した決断は「報復」だった。イスラエル特殊部隊"モサド"は、政府に事件を起こした11人のパレスチナ人ゲリラを暗殺することを命じられる。 リーダーに任命されたのは、人を殺したことはないアフナー(エリック・バナ)。彼は、他4人のスペシャリストと共に、アラブのテロリスト指導部11人を一人一人消して行く。


この作品は全く私の肌に合わなかったようだ。164分が退屈で退屈で仕方なく、早く終わらないかということばかり考えていた。「目には目を、歯には歯を」という考え、「やられたらやりかえせ」という考え――つまり「報復」という考えには、最初から同調出来ないのだ。スピルバーグはきっと、「報復」が無意味であることを伝えたいがために、事実を元にこの作品を作ったのだろう。それは分かる。でも、正直に言って、観ていて面白い作品だとは思えなかった。

実話ベースなので、事実を受け入れて観るしかないのだが、私は目の前で延々と繰り広げられる報復劇に、ただ、悲しい気持ちを感じることしか出来なかった。これは個人をターゲットにしているだけで、「戦争」と変わらない。主人公は自分の仕事に疑問を持たなかったのだろうか。与えられた任務なので、仕方なくこなしているだけだったかもしれないが、私には主人公の苦悩が伝わってこなかった。伝わってきたのは、自分も殺されるかもしれないという恐怖だけであり、人を殺すことの恐怖ではなかった。『ジャーヘッド』の感想でも書いたが、私は「戦争」を賛歌する物語が好きではない。殺す側に「人を殺すことの苦悩」を感じなければ、その物語に魅力を感じることは出来ないのだ。

実話なので、過剰な演出は出来なかったのだろうとは思うが、テロリストの最後のひとりを殺すまで続けられるかと思われた報復劇はあっけなく終わり、エンディングも中途半端な印象だった。この事実をスピルバーグが映画にして、何を訴えたかったのか。私にはそれが分からなかった。
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2006年02月19日

戦争の無意味さを別の意味で感じた◆『ジャーヘッド』4

a07881d0.jpg2月16日(木)TOHOシネマズ木曽川にて

祖父が海兵隊出身であり、父がベトナム戦争休暇中に生まれた、青年スオフォード(ジェイク・ギレンホール)。彼は大学へ進学するか、海兵隊員になるかで迷うが、結局、彼女を故郷に残して海兵隊に入隊した。しかし現実は厳しく、スオフォードに待っていたのは、虐待と変わらない新兵訓練。とめどなく浴びせられる教官の汚い言葉と肉体的苦痛。やはり、大学へ行くべきだったかという疑問が、彼の頭をかすめた。
偵察狙撃隊STAの候補に抜擢されたスオフォードは、過酷な訓練の末、60名の候補者から絞り込まれた8名に残り、1発の銃弾に命を賭ける狙撃手へと成長していく。そんな折、CBSニュースがイラクのクウェート侵攻を告げる。そこに突然スピーカーから、STA隊員たちの本部招集のアナウンスが入り、遂に、彼らがサウジアラビアに派遣される日がやってきた。しかし、実戦を期待していた彼らの気持ちと、現実には大きなギャップがあった。スオフォードたちの仕事は、見渡す限りの砂漠を偵察し、敵のいない砂丘に手榴弾を投げ、想像の地雷原を進み、敵を"待つ"。そればかりが果てしなく続いた。兵士たちはただ、退屈な砂漠での訓練を延々とさせられることになったのだ。そして、砂漠に来て175日目。兵士たちに出撃の命令が下り、いよいよ国境に進撃する時が来るが…。


戦争を賛歌する作品は、私は好きではない。ましてや、「戦場に行くために」自ら志願して海兵隊員になったスオフォードに共感出来るものはない。国民性の違いがあるので、「戦争が無意味なこと」という感覚は、アメリカ人と日本人では全く違い、同じ感性でこの作品を観ることは無理だろう。しかし、この作品は、ひとりの兵士の目を通して、彼が行ってきた「戦争」がいかに無意味なことであったかよく分かり、普通の戦争映画とは違う感覚で観ることが出来て興味深かった。テレビで報道されていた湾岸戦争の映像は衝撃的だったが、その裏に、こんな無意味な訓練を延々と続けていた兵士たちの姿があったとは、それもまた驚きだった。

「一度も撃たなかった4日と4時間と1分…。それが僕の戦争だった」

このキャッチフレーズが、厳しい訓練の末に狙撃手に選ばれたスオフォードにとっての、湾岸戦争の全てを語っている。スオフォードにとっての「湾岸戦争」とは一体なんだったのか。得たものは何もなく、結局失ったものは大きかった。『ジャーヘッド』とは高く刈り上げてお湯を入れるジャーの形をしている髪型を称して、海兵隊員のことを意味しているらしいが、スオフォードはそれを「空っぽの頭」と訳している。それが、スオフォードの「戦争」に対する皮肉なのだろう。

冒頭とラストでこんな言葉がスオフォードから繰り返される。

「男は何年も銃を持ち、そして戦争へ行く。帰国し、もう銃は手にしない。だが、その手で何をしても、女を愛したり、家を建てたり、息子のオシメをかえても、その手は銃を覚えている」

とても興味深い言葉だった。「面白い映画」とは少し違う。しかし、心に残る作品になった。
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2006年02月12日

ウッチャンの「本気」が伝わってくる◆『ピーナッツ』4

cfd9b093.jpg2月10日(金)TOHOシネマズ木曽川にて

富士山が近い小さな町に、寂れた商店街があった。そこへ、10年前、草野球チーム「富士沢ピーナッツ」で“伝説のサード”と呼ばれた男・秋吉(内村光良)が帰ってくる。町から上京し、一度は東京でスポーツライターとして活躍したものの、行き詰まりを感じて戻ってきたのだ。「もう一度、かつてのメンバーと一緒に野球がやりたい」という秋吉だったが、現在の「富士沢ピーナッツ」は、メンバーが9人にも満たず、試合も出来ない状態だった。その上、商店街は町の再開発で立ち退きを要求され、町の人々の心は揺れていた。そんな中、秋吉は「新生ピーナッツ」を立ち上げるべく、「ピーナッツ」から遠ざかっていた、チームメイトを呼び戻していく。


“ウッチャンナンチャン”のウッチャンこと内村光良が、初監督を務めた作品。ウッチャンが映画マニアで、映画の技術を学ぶ学校を卒業し、映画監督を志望していたということは、以前から知っていたが、ようやく長年の夢を叶えて1本の作品を作り上げたのだろう。それだけに、「単なるお笑いタレントが生半可な気持ちで作った映画」でないことは、観ていてよく分かった。スポーツを行っているシーンを撮るのは難しいと思う。しかし、あえてそれに挑戦してみたり、野球の試合のシーンにも、全くCGは使っておらず、みんな、身体を使って演技しているのを見ると、ウッチャンの映画監督としての「本気」が伝わってくるのだ。

出演陣は、ほとんどがお笑いタレント。「富士沢ピーナッツ」のメンバーには、さまぁ〜ずの三村マサカズ、大竹一樹、TIMのゴルゴ松本、レッド吉田、ふかわりょうなどが扮し、その他にも、くりぃむしちゅーの有田哲平、オセロの中島知子、ネプチューンの原田泰造、キャイ〜ンのウド鈴木などが「俳優」としてマジメに演技している。その中でも、ちょっとした笑いのエッセンスを取り入れることが出来るのは、やはりウッチャンのお笑い芸人としてのセンスがあるからだろう。

ストーリーはあくまでベタ。メンバーも揃っていないような弱小チームが、リーグ優勝をしているような最強のチームに、「商店街の再開発」を賭けて戦いを挑む。一度は栄光を味わった男たちの挫折と再起。そして、メンバーを襲う様々なアクシデント。でも、観ていて気持ちが良かったし、観終わった時にも、爽やかな気持ちになれた。

時間に追われ、10年前には出来たことが今では出来なくなってしまったと、日々の生活に諦めを感じている30代、40代の男性の人にはぜひ観てもらいたい。それは、やろうとする気持ちを失ってしまっただけで、もう一度本気を出してやろうと思えば出来ないことはない。そんな気持ちを思い出させてくれて、勇気をもらえる作品になっている。
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2006年02月07日

小悪魔的な天使が魅力◆『天使』4

9f1b529b.jpg2月4日(土)TOHOシネマズ木曽川にて

東京のとある街。ここには恋愛、友情、家族など、かけがえのない「愛」に悩むたくさんの人々が暮らしていた。なかなか恋に積極的になれないコンビニ店員のカトウ(内田朝陽)。恋人(永作博美)と子供との間で揺れ動くシングルファーザーの吉川(永瀬正敏)。学校でいじめにあっている女子中学生のみずほ(小出早織)…。そんなこの街に、ある日、天使(深田恭子)が舞い降りた。ジンライムが大好物というちょっと風変わりな天使は、猫のように人にじゃれたり、いたずらしてみたりと、とにかく自由気まま。けれど天使は、ちゃんと見ていてくれている。悩み苦しむ人々に寄り添い、勇気づけ、見守り、そっと背中を押す。そして、いつしか人々の心をじんわりとあたためていく…。誰もが抱えている様々な人間関係や恋愛の悩み。もう少し上手くいかないものだろうかと自己嫌悪に陥ったり、孤独を嘆いたりすることもある。それでもやはり人は誰かを愛し、愛されながら、幸せを感じたいと願う。そんな日常に、ささやかな希望や勇気を与えてくれるような“天使”の存在を感じられたら、一番大切なものを見失わずにいられるかもしれない。(公式サイトより)


些細なことで思い悩んでいたり、あと一歩のところで前に進む勇気がなかったりする時、そっと背中を押してくれるのは、もしかしたら、この映画で深田恭子が演じていたような天使の存在なのかもしれない…。そんな気持ちにさせられた作品だった。物語は4つのエピソードを上手く絡めたオムニバス。少し前に観た『大停電の夜に』を思い出させる構成だったが、少し強引さを感じた『大停電の夜に』に比べると、実際に天使が登場し、あれこれ手を加えるファンタジーとして、この『天使』のエピソードの方がすんなりと受け入れられた。

深田恭子が演じる天使は本当にキュート。ジンライムが大好きで、誰のとおかまいなしにゴクゴクと飲んでしまうところが、また可愛い。天使のくせに、いたずら好きの小悪魔的なところも魅力的だし、セリフがひとつもないのに上手く表現出来ていたと思う。その天使を、「天使を必要としている人だけが見ることが出来る」という設定も面白かった。

わざわざ大スクリーンで観るまでの作品ではなかったような気もするが、観終わった時に、ほんのりと幸せな気持ちになれて、なぜか自分にも「いいこと」が起こりそうな予感がした。素敵な映画だったのに、広い劇場には、観客は私ひとり。それをもったいないと考えるのか、天使をひとり占めできて贅沢だったと考えた方がいいのか…。
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2006年02月05日

知っておかなければいけない歴史◆『男たちの大和/YAMATO』4

3bf892bb.jpg2月3日(金)TOHOシネマズ木曽川にて

2005年4月6日、一人の女性・内田真貴子(鈴木京香)が鹿児島県枕崎の漁港を訪れ、老漁師の神尾(仲代達矢)に北緯30度43分、東経128度4分まで船を出してほしいと懇願してきた。その位置は、60年前の昭和20年4月7日に戦艦大和が沈んだ場所である。そして彼女は、自分が内田二兵曹の娘であると神尾に告げた。「内田」の名に驚いた。神尾は、まもなくして若い漁師・敦(池松壮亮)を伴い、真貴子を乗せた小型漁船・明日香丸を東シナ海に向けて走らせていく。まっすぐに前方の海を見据える神尾の胸に、鮮やかに、そして切々と、60年前の光景が甦っていく。

戦艦大和は、太平洋戦争開戦直後の昭和16年(1941年)12月16日、世界最大の戦艦として完成した。当時の造船技術の粋を注ぎ込み、4年余りの歳月を掛けて、広島県・呉市の海軍工廠で極秘裏に建造が進められてきた“不沈艦”は、世界最大の46cm主砲9門を備え、全長263m、満載重量72800tという他に類を見ない巨艦だった。「大和」は数々の出撃を経たのち、昭和20年4月、稀代の激戦地区となった沖縄に向けた最後の出撃命令が下される。この出撃には、3300余名が乗り込んだ。その多くは、召集後間もない10代代半ばから20代の若者たちだった。4月7日午後2時23分、米軍艦載機延べ300機の度重なる攻撃によって、誘爆に継ぐ誘爆を繰り返し、天高く突き抜ける巨大な火柱となった「大和」は 3000名以上の魂と共に、東シナ海の海底深くへと没した。生存者はわずか270余名だったという。(作品資料より)


「大和魂(やまとだましい)」という言葉を調べると、「日本民族固有の精神。勇敢で、潔いことが特徴とされる」と出てくる。大和が沖縄へ向かった時、燃料は片道分しか積まれていなかったのだという。それは、最初から戻ってくる見込みのない出撃と受け取ることが出来る。それでも出撃しなければいけなかったという時勢。3300余名の「大和魂」を乗せて、それは何という悲しい命令だったのだろう。

監督の佐藤純彌は1932年生まれ。つまり、年々減りつつある「戦争の生き証人のひとり」ということになる。この作品は戦後60年を経て、戦争を知っている監督の手によって、主に「戦争を知らない世代」の俳優たちの出演で作られた。そのこと自体に意味を持ち、「面白い」「面白くない」のレベルでは、これを語ってはいけないのだと思う。私たちはこの作品を観て、今の平和な日本が、多くの戦没者たちが流した血の上に成り立っていることを改めて認識しなければならない。

戦争に勝ったアメリカは、今でも平気で戦いを仕掛けてくる。反戦映画が多く作られる一方で、当のアメリカは「戦争」を「悲しい歴史」と受け取っていない。そんなアメリカと日本は違うのだ。日本はどんなことがあっても、絶対にアメリカに準じてはいけない。そうでないと、多くの戦没者たちが流した血が無駄になってしまう。この作品を観て、改めて戦争の無意味さ、虚しさ、悲しさを感じた。
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2006年02月04日

息子の活躍が鍵◆『レジェンド・オブ・ゾロ』3

acef231e.jpg2月2日(木)TOHOシネマズ木曽川にて

1850年、カリフォルニアがアメリカ合衆国の31番目の州になろうとしていた時、アレハンドロ(アントニオ・バンデラス)は、民衆の自由獲得を機にゾロを引退しようと考えていた。彼はエレナ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)と結婚し、可愛い息子のホアキン(アドリアン・アロンソ)との静かな生活を約束していたのだ。しかし、そんな彼の前に、この合併を望まず、暴力で民衆の自由を奪おうとする者が現れた。あと3ヶ月間だけゾロとして民衆のために役に立ちたいと望むアレハンドロに、エレナは「約束が違う」と怒って家を飛び出してしまう。アレハンドロはエレナに謝ろうとするが、エレナは学生時代からの知り合いである、フランス人伯爵アルマン(ルーファス・シーウェル)に言い寄られ、まるで恋人同士のように寄り添っているのを見てしまうのだった。それから3ヶ月、アレハンドロはヤケ酒に溺れる毎日を過ごしていた。そんなアレハンドロの前に、アメリカ滅亡を企む秘密結社が現れる。 


前作『マスク・オブ・ゾロ』が1998年の作品だったので、それから8年。前作は、アントニオ・バンデラスが演じる二枚目半のゾロを、楽しく観ることができて、私的にはかなり満足出来た娯楽作だった。本作は、前作から10年が経過し、アレハンドロとエレナが結婚し、子供も生まれているという設定になっている。10年前は、単なる「カッコいい正義の味方」ではなく、馬に乗るのもサマにならなかったアレハンドロは、すっかり「民衆のための、カッコいい正義の味方」になっている。家庭を大切にして欲しいエレナは、もうアレハンドロにゾロになって悪と戦うのは辞めて欲しいと願っているが、息子のホアキンは、自分の父親がゾロだとは知らないまま正義の味方のゾロに憧れている。

続編ということもあり、前作ほどの面白さは感じられなかったが、娯楽作としては「それなりに面白かった」という感想だった。前回の話から10年が経過しているという、ゾロの老け具合もいい感じだった。アントニオ・バンデラスの剣さばきには、前作ほどの"キレ"がなかったようにも感じるが、1960年生まれの彼の実年齢が45歳だということを知れば、それも仕方ないことだろう。それより、今回は何よりも息子ホアキンの使い方が上手かった。ゾロの息子はゾロになり得る。そんなことを感じさせられた活躍ぶりだった。しかし、息子というのは、ゾロに扮している父親に抱きしめられても、それが父親とは気づかないものなのだろうか。ご都合主義が気になったところや、細かいところに納得のいかない点はあったものの、単純に楽しめればよい娯楽作なので、これも目をつむることにしよう。

民衆に求められるもの。家族に求められるもの。そして、自分自身が一番やりたいと思っていることの中での、アレハンドロの心の葛藤も、上手く表現出来ていたと思う。
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【2006年7月】
ラブ☆コン★★
ハチミツとクローバー★★
日本沈没★★★
スーパーマン・リターンズ★★★
タイヨウのうた(2回目)★★★★
ブレイブ・ストーリー★★
やわらかい生活★★★
ステイ★★
カーズ(字幕版)★★★

【2006年6月】
着信アリ Final★★
ホワイト・プラネット★★
M:I:3★★★
DEATH NOTE(前編)★★★★
LIMIT OF LOVE 海猿★★★★
バルトの楽園★★★
インサイド・マン★★
オーメン★★★
トリック劇場版2★★★
初恋★★★
花よりもなほ★★★
ダ・ヴィンチ・コード★★
間宮兄弟★★★★
ポセイドン★★★
トランスポーター2★★★
デイジー★★★
GOAL!★★★★

【2006年5月】
タイヨウのうた★★★★
夢駆ける馬ドリーマー★★★
嫌われ松子の一生★★★★
かもめ食堂★★★★
ナイロビの蜂★★★★★
ピンクパンサー★★★★
Vフォー・ヴェンデッタ★★★★
チェケラッチョ!!★★★
グッドナイト&グッドラック★
ぼくを葬(おく)る★★★

【2006年4月】
陽気なギャングが地球を回す★★
明日の記憶★★★
ニュー・ワールド★★
ホテル・ルワンダ★★★★
ブロークバック・マウンテン★★★
ファイヤーウォール★★★

【2006年3月】
白バラの祈り★★★★
南極物語★★★
ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!★★★★
子ぎつねヘレン★★★
シリアナ
クラッシュ(2回目)★★★★★
イノセント・ボイス-12歳の戦場-
★★★★
ウォーク・ザ・ライン/君につづく道★★★

【2006年2月】
クラッシュ★★★★★
スパングリッシュ★★★★
カミュなんて知らない★★★★
ブラックキス★★
ミュンヘン★★
ジャーヘッド★★★★
ピーナッツ★★★★
天使★★★★
男たちの大和/YAMATO
★★★★
レジェンド・オブ・ゾロ★★★

【2006年1月】
オリバー・ツイスト★★★★
アメノナカノ青空★★★
博士の愛した数式★★★★
ロード・オブ・ウォー★★★
歓びを歌にのせて★★★
スタンドアップ★★★★★
プライドと偏見★★
キング・コング★★
THE 有頂天ホテル★★★★
SAYURI★★★
ディック&ジェーン 復讐は最高!★★★
チキン・リトル★★★


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(旧作もこの中にあります)
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